disc reviewかつての陽光は白亜に宿り、月下にて冷光を放つ

tomohiro

BlushingCopeland

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アメリカはフロリダ出身のビューティフル・エモ、Copelandの4年ぶりとなる新作。このバンドを聴くきっかけとなったのは、去年colormalのメールインタビューを敢行した時に、彼が自身の楽曲のリファレンスとしてあげていたことからなのだが、その非常に繊細で郷愁に溢れながら瑞々しく展開していくエモーティブはスクリーモオリジネート世代でも傑出しており(このようなハイトーンのモダンエモを聴くと、とかく思い浮かべるのはSaosinだが、Copelandはそれよりも先輩だ)、現代のThe World Is Beautiful Place And I Am No Longer Afraid To DieFoxingのような大局的でガラス細工のようなまさにビューティフル・エモと呼べるような音楽に通じる道を切り開いてきたと言えるのではないだろうか。

 

 

そんな彼らの活動を大きく表しているのが、EMI参加のTooth & Nail Records移籍後のリリースとなった(要するにメジャーデビュー作)4th You Are My Sunshineだと僕は思っていて、これはビューティフル・エモの到達点のように僕は感じていてとても印象深いアルバムなので以前レビューした。

 

 

この作品から数えると、実におおよそ10年の期間が空くのだが、今年リリースされた最新作、”Blushing” に再び彼らの音楽の開花を見、今回レビューするに至った。

 

今作の最大の特徴は、彼らのある種武器であった過度な泣き感を、現代的なドライなエレクトロニックに封じこめ、2016年のエポックメイキングの一つであったBon Iverの”22, A Million”が一気に脳裏によぎるような、「現行のインディーロックの最前線」として繰り出してきたことにある。

 

それは表面的に語るなら、ボコーダーの利用やロートーンのコーラスの重ね方にそういった音楽を研究したゆえの特徴が表れている点なのだが、もう少し深堀りしたときにたどり着くのは、リズムセクションの間の大きさにたどり着くのではないかと僕は思う。

それが顕著なのが、冒頭に紹介した#2 “Lay Here”。この曲では複雑に絡み合うストリングスやシンセサイザー、コーラスによって撚り上げられたメロディの軸を、最小限のドラムのリズムキープが支えており、そこにはダイナミクスを削ぎ落としたストイックな点の連結がある。そしてこの曲の飽和感と緩やかな上昇の一番の肝が、「弾かないベース」にある。もちろん、弾かないといっても全く演奏しないわけではない。ここで重要なのは、ベースがバンドサウンドの下支えではなく、それにしかない音域を柔軟に活用して楽曲を彩っていることにある。注意して聴けば、要所要所で粘り良く押し上げるようなベース音の段階的上昇に気づくだろう。これら、重心を下げた音響とリズムへの傾倒がCopelandの今作の肝だと思っている。

僕が直近のインディーロックの流れになんとなく感じるのが、ヒップホップの流行以降の抜きのリズム、低音の配置への理解であって、それが、一昔前のキラキラしたインディーとは違う、地に足のついたような骨の太い音像を生み出しているように思う。それは#4 “Suddenly”などで明らかに聴くことができ、機械的ルーズさを持ったリズムとホーンセクションの絡みが月の明かりの下、清潔で緻密なメロディの輪郭を描き出す。

 

 

いろいろ書いたけど、結局一等エモいのは、ビューティフル・エモを地で行ってきたCopelandがそれらの流行を敏感にキャッチアップし、自身の制作に実に深い理解を持って取り入れたこと。

あまり話題になっていないように思うけど、僕はこのアルバムは2019年の名盤10枚のひとつに数えることになると思う。まぁとやかく話したけど、これを読み終わってもう一回”Lay Here”を頭から聞いてくれたらなんとなく理解してくれるのではないかと思う。もちろんアルバムを通してこのクオリティが続く偏差値の高さも彼らの実力ゆえ。通して聞いてもっと浸ってください。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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