disc review壊滅をなお睥睨する、意志なき叫喚の果て

tomohiro

Through the MirrorENDON

release:

place:

これは2017年における事件である。2007年結成、今年で活動10年目を迎えた、ノイズバンド、ENDONの2ndがリリースされた。

10年のキャリアながら、初のアルバムの発売が2015年と、音源として世に知れ渡り始めたのはごく最近のこのバンドであるが、その初作としての”MAMA”の終わらないノイズと爆発的なドラムの洪水、地の底をうねるドス黒い咆哮には、生半可には近づくことも許されない、絶壁に近い孤高の暴力性と芸術性があり、恐ろしいという感情をまさか音楽に当てはめる日がくるとはと思わせる危うさがあった。

そして、2年の月日を経、日本人として初めてKurt ballou(Converge)にレコーディング、ミックスを一任、CDのリリースはDaymore Recordings、VinylはHydra Head Recordsという一分の隙もない布陣を敷き、万全を持って世に現れたのが、今作、”Thorough the Mirror”である。

前作に引き続き、激情、カオティック、ポストブラック、ノイズのその全てを飲み込みドロドロと吐き出す残虐性と明確な悪意は残留、しかし今作をより高めているのはKurt ballouの手による、ある種Deathwishナイズドされているあまりにクリアでソリッドな音像による、どこまでも引裂き続けるかのような切れ味とギターのフレーズに落とし込められた、激情、ポストロック解釈の流線型ではないだろうか。

地獄の底のようなグロウルだけでなく、ピッグスクイールやシャウト等ありとあらゆる発声機構を駆使し、楽曲に漆黒の激情と敵意を撒き散らすボーカルワーク、前述の美しさを携えたカリカリのギター、2つの音の壁として立ちはだかる情報過多のノイズの嵐、楽曲の屋台骨をずっしりと支えるヘヴィなドラム。彼らが生み出す混沌に次ぐ混沌は、変わらず聞く者に敵意と悪意を撒き散らし、感情の海の底に精神を突き落としてくるが、その嵐と虐待を超えた先、突然に恐ろしいほどの美しい情景が広がるのだ。その美しさには恐ろしく底の知れない気持ち悪さのような何かまで感じてしまう。

 

轟音と呼ばれる音がある。シューゲイザーであったり、ハードコアであったりといったジャンルにおいて、その魅力の一つとして語られる、聞く者を時には癒し、時には殴り殺す演奏者の感情の表れだ。大きな音、破壊的な音というものを希求して行った時に、立ちはだかる壁は思わぬものであった。それは人の感情だ。我々がギターを握り、ベースを握り、あるいはドラムを握っている以上、そこには演奏者の意志、体調、感情の全てが反映される。つまり破壊的な音を求め続けても、ギターを弾き続ければ疲れるし、そこに、ヒューマンエラーとでもいうべき、人間の動作にに呼応して音を出すものである以上避けられない、限界が訪れるのだ。彼らENDONとて、一般的なギター、ベース、ドラムの編成であれば、おそらくこれほどまでに残虐で救いのない音を出し続けるのは無理だったのではないだろうか。そこを超え、我々が嫌だと言っても、やめてくれと言っても無慈悲に音を出し続ける電子楽器という存在が、彼らのこの情け容赦のないエクストリームミュージックを作り出したのではないかと僕は推察する。

我々はこれほどまでに孤高の存在に上り詰めた完全にイっているバンドが日本にいることを誇るべきである。彼らの次の公演は、Hydra Head Recordsであり、IsisであったAaron Turner率いるSumac来日公演である。日米の感覚の先鋭であり孤高の衝突とも取れるこのライブツアーは間違いなく見逃せないものであるはずだ。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む