disc review何もない場所から成り上がり夢掴む、ラッパーの生き様と感傷

shijun

四畳半GADORO

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宮崎県出身のラッパー、GADOROの1stアルバム。フリースタイルを中心に活動していた彼の初の流通音源である。KINGS OF KINGS2016での優勝は記憶に新しく、ハードコアなスタイルで若手ラッパーの中でも頭一つ抜けた注目度を持っている。フリースタイルで見せたスタイルをさらに昇華させたような楽曲から、新たな一面と言える楽曲まで、12曲ながらバラエティに富んだアルバムになっている。

Introuduction的にまくし立てる#1「大願成就」。不穏なシンセとベースでアンダーグラウンド感全開の#2「CONCRETE JUNGLE」。一点ジャジーで色っぽいトラックにフックたっぷりの早口ラップが心地よい#3「M.Y.T.K TRIBE」。「チプルソの物真似/今じゃとっくに超えてるその壁」なんてキラーフレーズも飛び出し、彼のラッパーとしてのバックグラウンドを鮮やかにクールにしかし泥臭くリリックに籠めた熱い楽曲である。アングラディスコな#4「虫ケラの詩」であくまで重くアウトローな雰囲気でバシッと決めた後、打って変わってドリーミーなトラックな#5「JUST A DREAM」。ここで聞けるのは不可思議/wonderboy的な優しく真摯なフロウとリリック。観賞たっぷりに言葉を並べるGADOROの姿は、バトルでの彼しか知らない身には意外に映る部分もあるだろう。その後はレトロなトラックが印象的な#6「羊達の戦艦」、ガシッと耳に残るトラックとフックな#7「UNDER DOG」で再びハードコアな雰囲気を見せるが、ピアノ一本のイントロに驚かされる#8「今」、#9「夜桜」、#11「トワイライト」、そしてまさに四畳半ヒップホップという情景を描き出す#12「クズ」など、この路線の楽曲がアルバムの半分弱を占めている。

このアルバムのマインドはズバリ「成り上がり」で、それは一曲目である「大願成就」というタイトルからも感じ取れるし、自らの過去を散りばめた#3「M.Y.T.K TRIBE」をはじめ多くの曲の中に口癖のように意図的に散りばめられている。成り上がりというと華やかな終結とその前のひたむきでクレバーな努力ばかりをイメージしてしまうものだが、このアルバムではむしろ何もないところから成り上がっていくその過程の中での、感傷的な部分がフィーチャーされているようである。その四畳半フォーク的な等身大な感傷をヒップホップに落とし込んでいるところが、このアルバムの面白いところなのである。人間の生き様が詰まった熱く、泥臭く、しかし優しい一枚。ぜひ手に取ってみてほしい。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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