disc reviewきらびやかな夜を渡る、翡翠色の星間飛行

tomohiro

Being No One, Going EverywhereSTRFKR

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オレゴン州ポートランドのエレクトロ/ダンスポップ、STRFKRのキャリア5枚目となるアルバム。バンド名はこれでStarfuckerと読むもので、SBTRKTとか、MNDSGNとかと同じニュアンスで捉えて貰えばいいと思う。スマートでかっこいい表記ですね。基本母音抜きなんだけど、fuckerのCも表記から削って6文字に納めているのがクール。音楽性としては、MGMTpassion pitとの共通性を感じる、ノスタルジーなダンスミュージックである。キャッチーなシンセフレーズや、生音加減が絶妙な密度の高過ぎないベースの音作り、クランチ、クリーンをきらびやかに鳴らすギターや力強い裏打ちのビートの醸し出すダンサブルな要素と、繊細で内向的な雰囲気の感じ取れるボーカルの穏やかさとのバランス感が絶妙だ。

 

また、サウンド面にクラウトロックとの親和性を指摘するレビューも見られた。確かにKlaus Schulzeなんか聞いてみると、独特の無機的、宇宙的(?)な電子音にその影響を感じ取れるように思う。今作のタイトルは仏教徒、Ayya Khemaの著書からの引用とのことで、宗教への造詣も深いのだろうか。(クラウトロックの最重要項である、ミニマルニュージックの反復も、またトリップ/トランス的側面を持つもので、ある種宗教的と言えるかもしれない。)また、今作の制作にあたって、フロントマンJoshuaはロサンゼルスの自宅を離れ、モハーヴェ砂漠の居住スペースに居を移したとのことで、そういった多方面への、あるいはからのストイックなエネルギーが、踊れるのにあくまでもスマートで削ぎ落とされた印象や、トリップ感を感じる今作の空気感を作り上げたとも言えるのかもしれない。

 

レトロな響きのシンセサイザーで幕を開ける#1 “Tape Machine”は、中盤のハンドクラップの裏でうごめく電子音が妖しさを醸し出す。「I know your dark side is stronger than you think. You always were underneath.」などと歌ってしまうダークさも、まさにさもありなんといった感じ。#2 “Satellite”は軽快にはねるベースフレーズが印象的で、ベースのドライな音作りが曲を牽引しつつ、ウェットな質感のシンセやギターのフレージングと見事にハマっている一曲。続く#3 “Never Ever”。サンプリングパッドっぽいバシャバシャした電子スネアのチープなサウンドが、楽曲全体をニヒルな雰囲気に仕立て上げてしまっている、音選びにセンスを感じる一曲である。#5 “Open Your Eyes”は冒頭に挙げたMVが実にいい。地球に訪れたグレイタイプ(というステレオタイプさがまたいい)の宇宙人と、砂漠で暮らすむさ苦しい男が、地球をめぐって射的で勝負したり、酒を飲み比べしたりするという内容なのだが、この映像自体が、Joshuaが制作にあたってこもっていたであろう砂漠で日夜空想していたような、あるいは実際に起こっていたファンタジーストーリーなのではないかという気持ちにさせる。楽曲は言うまでもなく良い、毎日聴いてる。#8 “Maps”はMGMTの大名曲Kidsから、「The memories fade, like watching through the fogged mirror」という一節を引用して解説に当てたくなるような、深く霧がかった曲で、軽快な楽曲が多い今作の中で、カンフルとして機能している一曲だ。#10 “Dark Days”はまさにシンセポップという感じの印象で、キラキラしたシンセフレーズが仄かなナイーブさを保ちながら彩る。

Topshelfからのリリースは正直意外だったが、明確なインディさをにじませてくる彼らの楽曲は、レーベルの雰囲気に以外とマッチしているのかもしれない。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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