disc review零下の空気を吸い込み、踏み出す今朝のスニーカー

tomohiro

CopaceticKnuckle Puck

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2011年にスタートしたこのバンドは、アメリカはシカゴ出身の5人組インディー風味強めのポップパンク、Knuckle Puckだ。メロディのあふれんばかりの青臭さと疾走感はまさにポップパンク、メロディックパンク周辺のそれで、胸を焦がすようにして歌う、Vo. Joeのかすれた声がシンガロンを誘う。個人的にはそういったメロディック要素を好んで聴くわけでは無いのだが、僕がこのバンドに非常に惹かれるのは、深めのリバーブがかかった、エモ、オルタナ臭のすごい郷愁に満ちたギターサウンド。そしてもちろんそれはサウンドだけではなくソングライティングにも表れている。間違いなく10年代以降のモダンサウンドを鳴らしており、もちろん彼らの目指しているところもそこなのだろうが、そこに無意識、意識的かはさておき織り込まれるエモ要素が絶妙に涙腺を刺激してくる。歌が上手くてギターがテクいShipyardsというようなイメージが僕の中ではかなり近い。ギターもベースもバリバリかき鳴らしてドラムもバシバシ突っ走る初期衝動全開の青さのShipyardsに対して、抑え込むもにじみ出る初期衝動がモダンな楽曲を群青に裏打ちするのがKnuckle Puckといった感じ。

 

#1 “Wall to Wall(Depreciation)”はのっけからラストトラックばりの脳裏流れるエンドロールもさながらのエモーショナルな一曲。続く#2 “Disdain”はボーカルの独唱のパワーに気持ちを持ってかれる楽曲ながらも、テクニカルで差し方の上手いギターフレーズの旨味が濃厚な一曲。#4 “Swing”は独白にも似たクリーンパートでのボーカルワークからの空をも掴む突き抜ける上昇感が魅力。インタールードなインストトラックを箸休めにしつつも、なだれ込むのが、”まさに”な名曲臭バリバリの、鼻がツーンとする冬の空気を吸い込む朝の空気のようなイントロが満点の#6 “Evergreen”へとつながる。サビ裏のコーラスとアルペジオも冷たい疾走感を演出する。#8 “Stationary”はツインギターの絡みが曲を牽引する、比較的イマドキな一曲。この辺りがRise Recordsが目をつけた要素なのかなとも感じる。そして、一曲入れておきたいスローメロディック#9 “In Your Crosshairs”を超えた先に現れるのは、これもメロディックの不文律のようにすら感じる、スローからのトップテンポメロディック#10 “Pretense”。挿入されるしゃがれた語りというか、歌い殴りパートはもはや説明不要だろうか。アルバムを締めるのは8分近い大曲#11 “Untitled”で、Untitledという曲名の良さもさておきながらも、曲の後半全てを同じアルペジオフレーズでのエモーションに費やする余韻の熱望が捨て置けない。

 

最近Triple Crownへ移籍し、破竹の勢いのタッピングメロディックTiny Moving Partsや、ロシアからThe Get Up Kids直系の青春メロディックを爆発させるBicycles for afghanistan等と合わせて必ずチェックして欲しい、エモ経由の10年代メロディック、Knuckle Puck。これからの季節の冷えた空気と澄んだ後味がよく似合うバンドだ。

 

 

冒頭のEvergreenやPretenseの楽曲、バンドの魅力をストレートに、ストーリーテリングに表現する理解のあるMVも素晴らしい。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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