disc review渋谷系成熟期に現れたニュースタンダード

shijun

Big Wave '71ROUND TABLE

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1993年に結成され、1998年にメジャーデビューしたポスト渋谷系ユニット、ROUND TABLEの4th mini album。近年では女性ゲストボーカルを迎えたROUND TABLE featuring Ninoとしての活動(2012年に活動休止)や、声優、アニメソングなどへの楽曲提供など、ヲタク文化と渋谷系の融合である”アキシブ系”の第一人者として活動する彼らであるが、このアルバムの時はまだ純然とした渋谷系の後継者であった。

ボサノヴァなギターの上にムーディなスキャットの乗っかる#1「ride on the big wave」。ホーンセクションも彩りを添える軽快なネオアコ、シティポップナンバー、#2「get on the bicycle!」、#4「in the season」。ハミングがかわいいフュージョン風のラウンジ・ミュージック、#3「exotic ooh-room」。お洒落なスキャットとラフな合いの手で絶妙に楽しくアルバムを締める#5「wild chocolate brothers」。ネオアコ、ジャズ、ソウル、AORなどの要素を切り取ったシティポップ……とざっくりと言ってしまえばこの手のバンドにはよくある解説になってしまうが、このアルバムにはこのアルバムにしかない手触りがあると思う。それは当時の少年少女達の瑞々しい程の都会的なる者への憧れであったり、或いは彼ら自身が現実のものとして得ている都会の生活、CDウォークマンに「Big Wave ’71」を入れて歩く街の景色であったり、海に向かう車の中の何とも言えない高揚感さえ優雅に乗りこなせるひとときであったり。当時どういった人達がこのCDを手に取り、生活の一部に組み込んでいたのか、そんな景色ごと浮かんできてしまうようなアルバムなのである。それは彼らがすでに確立された渋谷系というジャンルが、成熟期を迎えるにあたって出てきたバンドであることに関係してくるのかもしれない。

先人たちが自在に切り開いた新たな音楽のムーヴメントを、どこかの無責任な大人が勝手に括って生まれたジャンル、渋谷系。それ故実態の存在しなかったジャンル像に、ぼんやりとした形を生み出したのが後続の世代である彼らでありCymbalsであったのだろう。それほどまでにかっちりした渋谷系アルバム、いや、実際には遊びの要素も存分に込められているのであるが、遊びの要素ですら渋谷系的であると思わせる様なアルバムとして仕上がっている。前述の通り、現在はむしろ別のフィールドに渋谷系の方法論を持ち込んで活躍している彼らだが、このアルバムはそんな彼らが渋谷系リスナーに真っ向から挑戦状を突きつけていた頃の一枚である。そして、これこそが現代における渋谷系のスタンダードを形成したのでは、と思わされるほどの一枚でもある。近年の彼らの仕事を知る人も知らない人も、是非耳にしてほしい一枚。

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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