disc review乱れ飛ぶ雑言のごった煮が起こした思わぬ化学反応

tomohiro

Volume Plus VolumeRescue

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おそらく日本での知名度はそれほど高くはないのではないだろうか。シカゴで活動し、1枚のEPと1枚のアルバムをリリースするのみに終わった短命のポスト・ハードコアバンド、Rescueのフルアルバム。90年代前半にシーンに現れたFugaziJawboxなどをはじめとする、ハードコア・パンク、ディスコーダント・ハードコアの流れ、および音楽性は、その後90年代半ばにShellacFaraquetなどによって、変則拍子、不協和音を多用したフレージングなどの音楽的特徴を持ってますますの発展を見せた。こういったディスコーダントの流れから少し後の00年代直前あたりまで来ると、Drive Like JehuAt The Drive-Inなど、突然変異的な鮮烈なポスト・ハードコアバンドがシーンに登場し、その盛り上がりを引き継いだ。Rescueはそういった流れを引き継いでシーンに登場したバンドであり、当時は少なからず脚光を浴びたのではないかと思う。また、同時にこの時期はNew Found GloryJimmy Eat Worldなど、のちにSaosinなどのスクリーモへと繋がっていくエモ、ポップパンクバンドがシーンに現れていた時期とも重なる。

Rescueはディスコーダントの血を受け継ぎつつも、リフにキャッチーさを持たせたポスト・ディスコーダントとでも呼べるかのような変則拍子、過多なキメのテクニカルな楽曲と、それに重なる頓狂でキャッチーなボーカルワークが持ち味のバンドである。歌モノ的要素をハードコア要素と絡めたスタイルを武器とした彼らは、ポストロック、エモ要素を強く含んだCrash of RhinosCinemechanicaCastevetMeet Me In St.LouisKidcrashなどの現在ポスト・ハードコアとして語られるようなバンドの雛形を、一足早く実践していたということになる。

 

#2 “Like Deja Vu, Like Deja Vu”では頭からいきなり歪みまくりのシャウトが鳴り響き驚くかもしれないが、心配することはない。一度ボーカルが歌い始めれば、その殺伐とした空気感は消え去り、どこかアトラクション的な愉快さすら感じられる各パートのリフとボーカルの弾幕だ。勢いもそのままに転げ込んだかと思えばいきなりピアノが場を鎮める#3 “Like Spaceships”、もちろん彼らがそんなもので落ち着くはずもなく、引き続き繰り出されるリフ、リフ、リフそしてなぜか普通にかっこいいギターソロまでおまけにつける。右耳のギターで刻まれ続ける一定のリズムを、絶対に崩してやらんとする意志すら感じるような、リズムも拍もごっちゃごちゃの他パートが襲いかかる#4 “Shoes and Chairs”。このまま続けていくとキリがないので残りの解説は割愛させていただくが、10曲鳴らし終えるまで一切熱量とテンションを落とさず弾きまくり続ける各パートのエネルギッシュさと引き出しの多さには感服だ。

彼らの特異な存在感は、後進にも大きな影響を与え、PswingsetはリスペクトのあまりRescueの曲名からバンド名を拝借したと語っている。現在どの音源もフィジカルは手に入れづらいようだが、このアルバムと前作のEPが2枚組で収録された『Volume Plus Volume Plus』がbandcampでダウンロード販売されているので、ぜひ、ポストハードコアを愛するバンドキッズは手に取ってみてほしい。

 

 

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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