disc review若さは、武器とならなかった時、初めて過ちになる

tomohiro

KeziaProtest The Hero

release:

place:

驚異のテクニカル、グッドメロスクリーモボーカルの高度な融合が他の追随を許さない。2007年の来日当時、平均年齢20歳というところから逆算すると、このアルバム発売当時は、平均年齢18歳ということになる。Protest The Heroにおいては、2ndアルバム”Fortress”が最高傑作であると思っているが、今回は、その完成度と若さがとても結びつかない、怪作かつ、重要作な”Kezia”のレビューとさせていただく。

 

不必要なくらいマッシヴにテクニカルなリフを挟み込みながらも、楽曲としての体裁を失わず、さらにはキャッチーさを助長するアンサンブルは爽快ですらあり、奇跡的なバランス感覚によって成り立っている。何より、たとえ曲調やテンポ、拍子が何度変わろうとも、変わらずにバンドを牽引し続けるヴォーカルRody Walkerの実力たるや、まさに感服である。パンクスプリングでの来日の際のインタビューでは、彼のルーツとなったボーカリストとして、Dream TheaterのJames LabrieやIron MaidenのBruce Dickinsonなど、日本で言われる”ヘビメタ”的ハイトーンボーカリストや、それと並べてオペラ歌手のAndrew Lloyd Webberの名前を挙げている。時にオペラ的なドラマチックさを垣間見せるのはそういったところからの影響なのかもしれない。

個人的な話になるが、Dance Gavin Dance, ex- Tides Of ManのTillian PearsonとClosure In MoscowのChristopher de Cinque、Protest The HeroのRody Walkerは近年のスクリーモ、ポストハードコアにおいて肩を並べる美声ヴォーカルだと思っている。

Blindfolds AsideのMVからも感じ取れるが、初期の彼らは政治色の強いバンドであり、プロパガンダ的な歌詞やスタンスも特徴の一つであった。そういったパワーのあるメッセージを伝える手段として、彼らが取った形が、こんなバカテクメタルバンドだったのは、若さゆえというか、どこか憎めないものがある。1stフルレングスというところもあって、楽曲にやや冗長さを感じるところもあるが、そういったところも含め、のちの彼らの音楽があると考えながら聴くと、実に味わい深いはずだ。

音源のミックスも特徴的であり、ブリブリのトリガー音が心地よいドラムや、音域的に高めを狙って存在感を増しているベースなど、要するに全パート聞こえて ほしいんだなという感じが清々しくていい。こういったミキシングはどこから始まったのかは知らないが、ここ最近においてはSumerian Recordsを中心にdjent系バンドでよく用いられているように思う。

 

彼らの音楽を正確にカテゴライズすることは難しいが、コテコテのテクニカルさと大仰なボーカルスタイルという点は、SixthThe Dillinger Escape Planに近いものを感じるし、ことヴォーカルに注目するならばSystem Of A Downからの影響もあるように思える。ドラマチックな進行を用いている時には、Shai Huludのようなニュースクール的香りもあり、また、ConvergeCoalesceのようなヘヴィで縦割り感の強いリフも垣間見える。これらのバンドの多くが総合的にマスコア、もしくはカオティックハードコアと呼ばれることが多いため、彼らもそこに並べられることが多いようだ。そんな雑食的な彼ら、これは気のせいかもしれないが、#10 “A Plateful Of Our Dead”の中盤にQueenのオマージュ(3人でやるおっかけのコーラスワーク)が入ってるのでここはぜひ聞いてニヤッとしてほしい。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む