disc review方舟すら押し流す、黒曜の激流葬

tomohiro

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それは音の洪水とかそういったものでなく、もはや濁流に近い。足し算に足し算を繰り返したマッシヴなシューゲイズサウンドは、ある種ユートピア的で安らかな音像を特徴とするシューゲイザーの正統とは異なり、そういったパーティクルに満ちた眩い世界を全て押し流す、ディストピア的な漆黒の奔流である。

名古屋のシューゲイザー、オルタナバンドAysulaの1stフルレングス。ライブにおいて見せる圧倒的な量の機材は、そこから期待されるサウンドを少しも裏切らず、奏でられるのはもはや音の壁である。ジャパンシューゲフェスにおいてはLemon’s Chair死んだ僕の彼女との共演を果たし、AUDIO BOXINGとの共同リリースイベントにおいては、孤高のポエムコアアーティスト、Boolを名古屋へと招聘するなど、名古屋のアンダーグラウンドにおいて、確かな存在感を見せる。

 

シューゲイザーを基調としながらも、歌モノとしての要素も強く、さらにはdownyを彷彿とさせるような、ポストロック、エクスペリメンタルな一面ものぞかせる。前述したように、殺伐としているとまで言ってしまえるような、攻撃的で非・多幸的な音楽を武器とし、他のシューゲイザーバンドとは一線を画す。その姿勢はDeafheavenのようなハードコアミーツシューゲイズなバンドと比肩すると言えるだろう。減算し続けても永久に0にはならないのではないかとすら感じてしまう無数の音、ノイズに満ち溢れた音源はカタルシスを聴くものに与え、バンドのライブ感を表現するに十分であり、素晴らしい出来栄えである。

 

暗雲立ち込める風景を匂わせる#1 “暗澹”に始まり、絶望的な感情の奔流が物理的に押しかかったくるような錯覚すら覚えるキラーチューン#2 “sphere”、アトランダムに挿入される歪んだベースがセンスフルで、楽曲に漂う緊張感と恐怖感を高める#3 “bells”、ギロチンが落とされるかのような鋭利な縦割りのギターと、交互に現れる三拍子のワルツ的フレーズが混沌とした様相を呈する#4 “remark”、Explosions In The SkyCaspianのような嵐を抜けた先に広がる壮大なポストロックインスト#6 “夢幻螺旋”など、”シューゲイザーバンド”のアルバムとして評価するには多様すぎる曲の振れ幅は、バンドの底力を感じさせる。何よりどこかナードで土臭いうろんなボーカルワークがAysulaのオリジナリティをより高めており、名古屋という土地に生まれたバンドに時として見られる、単一ジャンルに固執しない雑食音楽としての良さが表れている。

漸進的ながらも確実に一歩一歩深い足跡を残し歩を進めるAysulaというバンド、今後もその存在感は確固たるものとしてあり続けるだろう。

 

購入はHPより、ライブ会場、もしくは通販にて。

名古屋のFILE-UNDER、埼玉のmore records、大阪のFLAKE RECORDSなど、良質なインディー、オルタナを我々に提供してくれる各地のレコードショップにおいても取り扱われているのもバンドへの期待の表れだろう。

 

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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