disc reviewロックスター・ラヴズ・オルタナティブ

shijun

No! No! No!SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER

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日本のオルタナティブ・ロックバンド、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの2000年発売のフルアルバム。あの小山田圭吾が主催するトラットリア・レコーズからCDを出していたこともあり、渋谷系の文脈で語られることも多い彼女達であるが、ここで展開されているのはフリッパーズのようなネオアコでも、サニーデイのようなフォークでも、スチャダラやソウルセットのようなヒップホップでもない。Sonic Youth等のノイズパンクニューウェーヴ、さらにはガレージロック等の影響も感じる硬派なオルタナである。吐き捨てるようなアダルティで気だるいボーカルスタイルもロックスター然としており痺れるものがある。ギターボーカル兼コンポーザーの日暮愛葉はYUKIthe end of shite」の作詞・作曲・プロデュースなどでも知られる。

一本のリフを中心に展開していく#1「No Star」。媚びる姿勢を一切感じないクレバーでアダルティなボーカルスタイルにいきなり惚れこんでしまう人も多いのではないのだろうか。続く#2「No Telephone」はノイジーに勢いよく突き進むガレージナンバー。ツインボーカルの掛け合いもかっこよいキラーチューン。#5「Red Dress」ではしっとりとした色気溢れる始まりから、吐き捨てるようなボーカルと共に轟音を叩きつけるパート、さらに短いながらもハッとさせる台詞パートまで現れ、またしっとりに戻るという、曲展開の妙が楽しめる。セッション風のインスト曲、#6「Introduction No.9」では、サックスとファジーなギターの奇妙な掛け合いが思わず酩酊感をそそる。

思わず不安になるようなホラーパートと痛快な轟音パートが交互に挟み込まれる変態曲#7「Krazy 4 U」。かなりヘンテコなシンセとサックスの絡みに耳元で語り掛けるようにアダルティなボーカルが乗る、この世界と3位相程ずれた世界のフュージョンのような#8「Grapefruit」。エフェクトのかかったドラムからはじまり、これまた語り掛けるようなボーカルに骨抜きにされそうな#9「Everyone’s Fave」。雄大なストリングスのような音が少しずつ近づいてくるも、壮大さとはまた違った奇妙な聴き味で癖になる。ここまで二曲連続でほとんど目立っていなかったギターが吠えだし思わず「待ってました!」と声が漏れるストレートなロックンロール、#10「A Guitar For Me And Milk」。硬派な音の塊に再び圧倒される。そして、アルバムラストらしく聞かせるメロディを持ちエバーグリーンな雰囲気だが、サビで妙なエコーがかかったりとやはり一筋縄ではいかない#13「Do I Love you Enough?」。

気だるさを前面に押し出した轟音オルタナかと思わせておいて、アルバム中盤ではかなり変態的でニューウェーヴィーな試みもあったりと、聞き手の予想を裏切る遊び心と、曲展開に対する妥協の無さが現れている。そんなアルバムに一本の芯を通しているのが、日暮愛葉のどうしようもなく色気に溢れ、どうしようもなくロックスターなそのボーカルである。シーガル解散後もソロアルバムをリリースしたり、LOVES.、THE GIRLという新バンドを結成したりと活動を続け変わらぬロックスター振りを見せつけてきた彼女。2014年についにシーガルを再始動させ(日暮以外のメンバーは一新と言う形に成ってはしまったが)、そしてついに15年ぶりのアルバムが今日発売された。筆者はまだリードトラックしかチェックできていないが、年を取るにつれてさらに熟成された色気と風格、そしてオルタナティブロックへの愛に溢れており、非常に今後の活動が楽しみになる一曲であった。まさに「今」を生きるバンドとして蘇ったSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER。新譜と共に旧譜もチェックしてみてはいかがだろうか。

 

15年ぶりの新譜「ETERNAL ADOLESCENCE」より。

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

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