disc review風に抜けるあの日のリアル、今日、騒々しさの中で

tomohiro

NARROW WAYSNAHT

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日本におけるポストハードコア黎明期において、明らかに他のバンド達と違った質感、輝きを放っていたメロディック・ポストハードコアバンド、NAHTの1st フルレングス。活動開始から1年程度で、Fugaziの来日ツアーのサポートアクトを努め、それ以降、Burning AirlinesQ and not Uを筆頭とし、様々なディスコード界隈のバンドとのツアーを経験し、更にはBuring Airlinesのアメリカ東海岸ツアーにも参加、Hey MercedesDeath Cab For Cutieなど、シーンの筆頭たるバンド達との共演も果たす。

当時、日本において、ポストハードコアはまだ十分な地位を得ていたとはいい難く、その音楽性の知名度も高いとは言えなかった。そんな中、今現在、2015年に聞いても十分に新鮮さを感じる、変拍子と不協和を強調したアンサンブルと、メロディックパンク、メロコアライクな爽快感溢れ、涙腺を刺激するメロディの組み合わせは、リスナーにとって大きな衝撃であっただろう。結成以前に、メンバー達がハードコアバンドをやっていたことに由来するのだろうか、明らかに歌モノとしてのスタンスでありながら、歌にメインの立ち位置を取らせない、エッジーな楽曲は、ポストハードコア、エモが直近の音楽であったであろう、90年代後半に独特の生々しさを感じる。エモ直系たる由縁として、レギュラーチューニングを用いず、複数の変則チューニングを用いて作曲を行っているところも特徴の一つであり、また、そういったチューニングを、アルペジオ等を用いてオープンコードの響きを生かすようには扱わず、パンク、ハードコアライクなハイゲイン寄りのサウンドでコード弾きで突き進むスタイルも独特でかっこいい。

 

楽曲をザクザク縦割りにするツインリードばりのリード&サイドギターがハイテンポな楽曲を駆け巡り、そこに自然に重なる変拍子とメロディックなボーカルが、この時期のNAHTを象徴するような#1 “#F.A.C.G.B.E”、#2 “Myself Broke Into Pieces”、#9 “Your Two Penny Consciousness”や、ミドルテンポ気味になり、より一層ディコーダントな不協和リフが炸裂する#3 “Irritating”、#4 “Reason Reach A Way To Understand”、アコースティックなイントロダクション曲、#6 “Landowner(inst.)”、まさに90’sエモな#11 “Real Estate”など、当時、エモが海外から日本へと伝播し、日本の中で広がっていく一過程を目にすることのできる、日本のエモを聞く上で非常に重要な立ち位置にある一枚であると思う。

しかしながら、このアルバム、レコードショップのユーズドコーナーに並んでいるのをよく見る。もしかしたら、ニッチなジャンルの音楽を好む層には、よりリアルに近い形を好む人間が多く、日本人らしいキャッチーなメロとの融合を果たした結果、ハイブリッドなサウンドとなったこのバンドは、重要視され難い傾向にあるのかもしれない。個人的にBorisNAHT等、日本での人気に対して海外での人気が高いように感じるバンドはそういったバンドが多いように思う。

90年代後半から00年代前半において、There Is A Light That Never Goes Outなどとともに、エモ、ハードコアシーンを牽引したクリティカルなバンドである。後に、バイオリンをメンバーに迎える等、その音楽性は多様に変化していくが、中でもエモであるこのアルバムは必聴だ。

2002年には、MO’SOME TONEBENDER怒髪天YOGURT-poohScoobie DoTHE BACK HORNなどとともにスペースシャワー列伝のコンピレーションにも参加する等、メジャーシーンにも顔をのぞかせる活動もこのシーンにおいては貴重だ。2009年に解散。

 

 

 

バイオリンを迎え、歌詞も日本語詞になった時期の作品。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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