disc review豪州に生まれた眩き井の中の蛙

tomohiro

First TempleClosure In Moscow

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オーストラリアにおけるスクリーモ、ポストハードコアを語る上で外すことのできない存在感と異質さを放つ、オージースクリーモの異端児、Closure In Moscowの1stフルレングス。リリース当時結成からわずか3年、公称としての平均年齢は22歳という若き才覚にあふれた彼らのアンサンブルは、瑞々しさとアダルトな艶やかさまで兼ね備えた、早熟かつ円熟たる傑作である。

オーストラリアにおいて、良質でスマートなスクリーモバンドがひしめいているという話は、以前City Escapeのレビューの際に触れたが、そういった純系統のスクリーモのバンドと比べると、Closure In Moscowというバンドは、より貪欲に彼らの好きな音楽を吸収し、アウトプットしていく過程で生まれたのがたまたまスクリーモ、ポストハードコアであったという印象を受ける。

そこから感じられる彼らのバックグラウンドは、Pink Floydなどのサイケデリック・プログレッシブロックに始まり、あるいはファンク、ジャズ、ポップスなど、多岐にわたり、それらを彼らの思う形にマッシュアップしたのが、この”First Temple”なのである。そういった道筋はThe Mars Voltaなどのプログレ通過型ポストハードコアバンドたちがたどったものと同じであり、その手のバンドと比較されることは想像に難くないが、あくまでも彼らは自身の音楽性に誇りを持ち、セカンダリーでないオリジナリティを主張している。そういった彼らの熱意とプライドが溢れ出た作品だと言えるだろう。(ギタリストとバックボーカルを務めるMansurのパフォーマンスからはAt The Drive-InThe Mars VoltaのOmarの影響が感じられる気がするのだが。)

 

#1 “Kissing Cousins”から#4 “Vanguard”まで、4曲続けてハイテンションかつグッドメロディのライブチューンの羅列でリスナーを鷲掴みにすると、#5 “A Night at the Spleen”では良質なポップスのようなしっとりとしたアダルトでムーディな歌声を聴かせる。そこから”So Let’s Sing Together”などと呼びかけながら楽曲の熱量は急上昇する。もう、胸が苦しくなってくるところだ。そこまででスクリーモパートは一旦収束し、よりプログレやポップス面の強い楽曲が顔をのぞかせる。絶妙なミドルテンポチューンの連続の間に挿入される、深いリバーブの靄がかかるサイケデリックでノーBPMな”Permafrost”やアコースティックギター2本とウィスパーボイスの絡みが郷愁を誘う”Couldn’t Let you Love Me”などがアルバム全体の空気感を維持し、しっかりと脇を固める。

 

何と言っても聴いていて楽しいのが、バッキングに回りたがらないギタリスト2人とエネルギッシュなボーカルとのせめぎ合いである。お互いに歌メロを食うんじゃないかというくらいの良裏メロを奏でながら、ハモりを入れたり、ギターバトルみたいな自由な絡みを入れたりするギタリスト達を尻目に、どこ吹く風で自分の歌世界を構築し続けるChrisの憂いを帯びた歌声と、時折現れるギター、Mansurのハイトーンな美声も要注目である。

 

 

 

 

昨年リリースされた新譜から

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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