disc reviewcllctv.企画 Bookshelf vol.3

tomohiro

Primacasata

続く演奏は、Primacasata。彼らを初めて見たのはおおよそ2年前だったのではないかと思う。その頃僕の中では激情、ポストハードコアへの熱い憧憬が芽吹き始めていた頃であり、もちろんドンピシャのバンドであったわけだが、そういった要素を差し引いてもなお有り余る、ハードコアとしての枠に止まらない、力強い歌を併せ持った彼らにはただただ圧倒され、曲も知らないのに腕を振り上げ、叫んでいた記憶がある。東京というロケーションもあり、それ以降彼らと会うことができたのは、2016年初頭の名古屋でのライブのみ。しかし、あの演奏、あのエモーショナルさは、いつだって音が聞こえ始めた瞬間から全て鮮明に蘇ってくるのだ。

新曲も織り交ぜながらも、これまでの活動ですでに音源化されている楽曲が中心のセットリスト。しかし、例えば『体温』ではほぼ再構築といっても過言でないほどの大胆なアレンジが施されているなど、これまでの楽曲もその表情を変え、そこの中には確かに彼らが音を紡いできた時間があった。 僕(というか僕の周りの数名も含め)から悲鳴にも似た歓声が上がったのは、『それでも羊は戦う』のイントロ。国内激情への強いリスペクトを感じるアルペジオから、畳み掛けるように叫ばれるサビの歌唱はうるさいほどのシンガロングに包まれる。彼らは確かに非常に歌が立つバンドである。しかし、一般的なロックミュージックのように明確にメロディ分けがあり、歌があるという感覚はすこし違う。楽器の一つのように、メロディが挿入され、そこに言葉が乗る。彼らの音楽はそういった感触をしており、それ故にそれは普通の「歌」よりも非常に感情的だ。最後の展開も名残惜しく、続く『アラタ』、『チルドレン』へとライブは進む。ソリッドな展開に叙情的さ、歌の力にも磨きがかかった、『アラタ』、怒涛の展開とミドルテンポのクリーンアルペジオ、視界が広がっていくサビが印象的な『チルドレン』。時にGから動かないチューニングに悩まされながらも彼らのライブは後半戦へと進む。

35分という長丁場のライブは初めてだと彼らは言っていた。彼らの歌には確かにそれぞれでエネルギーを出し切らないと処理しきれないような強い熱量が内包されている。しかし、ライブにその減衰はない。メロディックな高速ビートでの展開に前半部が切り替わり、生まれ変わった(そこの部分の歌がまた素晴らしい)『体温』、現在の彼らの代表曲とも言える『盲目』と続き、流れる汗も振り乱しながら、彼らは自身も知らない未知の領域へと足を踏み込む。そして、セットリストの最後、まだ名前のないこの曲は、Gt/Vo. 石黒の独唱で始まる。これまで通りに歌とポストハードコアの慎重な水合わせはあるものの、強く「歌」へのフォーカスが見て取れるこの曲は、これまでのどの曲とも違い、切なく、悲しい響きを持ち、クライマックスを彩るかのように、彼らの感情は、ついに爆発した。

  1. scavenging
  2. それでも羊は戦う
  3. アラタ
  4. チルドレン
  5. 体温
  6. 盲目
  7. 新曲

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む