disc reviewmail interview Gue meets cllctv.

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Tomohiro Gueの曲はいつも力強いですよね。でもこうして一生懸命な作曲を経て何度でも聴きたい濃い歌が生まれてきていると思うと、今のままでいてほしい気持ちもあります。

Tomohiro 力強いという話で聞くべきことがひとつありました。Gueの詞は必ずしも口ずさみやすいような言葉選びばかりではなく、言葉の一つ一つにとても重みがある文字運びをしていると思います。これにはどういったところが影響しているのでしょうか?

なんでしょうね…。ブッチャーズの吉村さんの歌詞には影響を受けていると思うんですけど、元々情緒があまり豊かではない自分がそこを求めても、憧れに終わってしまったというか、ただただ気難しいだけになってしまって反省したことがあります…。

ただ、言葉におけるオリジナリティはかなり大切にしてきました。曖昧な表現になるんですけど、曲名や歌詞において「気だるいなんとなくな感じ」があまり好きではなくて、というのもやっぱりそれが流行っていた時期があったからで、悪いとは決して思ってないんですけど。なんとなくばっかで何なんだ?と疑問を持っていました。それに対する反発心が影響していることは確実です。

Tomohiro 谷さんの詞には、洋書の翻訳のようなその奥に情緒が光るような、言うなればハードボイルドな響きがあって、そこはGueの大きな強みだなと感じていました。決して情緒がないようには感じませんでした。谷さんでしかない、谷さんの過去、現在、未来が美しく描かれていると思います。

ありがとうございます…(照)

Tomohiro 多分谷さんの言っている時期って2010年前後の残響・下北系の流れだと思うんですが、確かにあの時期は、散文詩的であったり抽象的であったりと言った音楽がいわゆる「内省的」と呼ばれるサウンドと合わせて好まれていたように思いますし、僕はそちら側にズブズブでした。僕は当時洋楽嫌いで、洋楽に対する反発心からそう言った音楽に傾倒し、今でも自分の音楽に大きな影響を残しているように感じますが、やはり何かに対する疑問や反発心は大きな原動力になるのかもしれませんね。

Tomohiro 本はよく読まれたりしますか?好きな作家であったりとか。

月に必ず数冊、というレベルではないですが、本を読むのは好きです。ハンガリー出身のアゴタ・クリストフの作品が好きで、特に「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」からなる三部作が最高で…。戦後の話でムードはかなりダークな感じなんですけど、決してニヒリズムじゃなくて。暗い気持ちになるけど痛みも苦しみもあまり感じない、不思議なマイナスの心地よさが漂う作品です。好きな音楽にも通ずる部分があるように思います。Tomohiroさんが言ってくれたように、〝洋書の翻訳〟の要素はこういったところにあるかもしれないですね。

Tomohiro すごく気になるレコメンドですね…。マイナスの心地よさ、僕も好きな感覚なので読んでみたくなりました。

Tomohiro 歌詞というか音楽の表現の話についてもう少し。新譜ではこれまでと少し趣を変え、今までの決して後ろ向きではないものの何処かドライで、少し間接的な楽曲から、よりシンプルにポジティブで直接的な表現の楽曲が多くなったと思います。(一人称や二人称の言葉選びなど。)これにはどういった環境、心境の変化があったのでしょうか?

「簡単に理解されてたまるか」っていう気持ちがあったからインディーロックに魅了されていましたけど、23歳から働き始めて、その中で様々な心境の変化があって、表現や伝えることに対して具体性を持たせたくなりました。拗ねたり、屁理屈にまみれると楽ですけど、「ああ、これだと何も変わらないし、誰も変えてくれないんだな」と思い始めて、前に進める力が強くなったのも大きく作曲に影響していると思います。

Tomohiro 音楽をやる上での初期衝動って、僕は内面の発散によるものが多くあると思っていて、それゆえに色々なバンドで初期ではギラついたような輝きがあって、そういったエネルギーでの作曲を経てからのそれぞれのバンドのあり方で、音楽はより深みが増していくように思います。そして僕はそういった変化を見られる、ある意味晒してしまえることが音楽というものの面白いところだと思っています。最近のGueに親しみやすさというか生活感に近い肌触りが出てきたのには、そういった生活を見つめる機会が増えてきたことが理由なのかもしれませんね。

それはかなりあると思います。初期衝動の作品って、未完成だけどある意味完成されているものが多い気がしていて。取り戻せない青春時代のような感じですかね。2nd、3rdとリリースする度に、20代を生きている現実的な感情をより色濃く書くようになったと思います。加えて、10代からの続編的青春を描いているような感覚もあって、年下の人達には先導できる希望を与えたいなと思いますし、同世代のみんなには一緒に頑張っていこうって手を取り合いたいですし、年上の人達には「今の若者こんな感じです!」って訴えたい。年代に捉われず、気持ちを大切に伝えていきたいと思ってます。

Tomohiro Gueの音楽は、すごく「旗手」という言葉が想起されるんですよね。そこには僕らの内面のエネルギーやくすぶりを焚きつけるようなポジティブさがあって。それは決して底抜けのポジティブではないと思うんですけど、それゆえに親しみを覚え、奮い立つものがあるんですよね。音楽は作る人の今を映すものであるときが最も瑞々しく聞こえるように思います。これからもその気持ちを作曲に生かしていっていただきたいですね。

それと今作は『Astra』と『ボーイ』が慧との共作で、彼がオケを持ってきて、僕が歌と歌詞をつけました。慧は身近にあまりいない根明な音楽家なので、彼が作った曲に向き合うのは物凄くエネルギーが必要だったんですけど、創作面で確実にプラスになりました。自作曲への相互作用も確実に働いて、アルバム全体にバイタリティーが生まれたように思います。

Tomohiro 『Astra』には、今までになかったポップさを垣間見ました。それはGueのソングライティングに新しい風が吹き込まれたからだったんですね。新しい風でありながらも、やはり歌が聞こえてきたときにGueでしかないなにかを感じましたし、そういった根幹の部分を共有でき、刺激し合えているのは素晴らしいことですね。

今までにも慧との共作は数曲あったんですけど、初めはかなり苦戦してしまって…。今回レコーディングした2曲は相当コミュニケーションを取りました。慧の新しさや明るさと僕の渋さ(?)をどう慧のフィールドに落とし込むかっていう作業が想像以上に大変で、もの凄いスピードで錆び付いた脳内をアップデートさせられました。笑 おかげで『Astra』が完成した後、しばらく後ろ向きになりましたし…。

Tomohiro 笑 無理して正に突っ走ると後で重いものが襲ってくる感覚、わかります。でもその振れ幅もあって今作『Luminous』は今まで以上の色鮮やかさで多くのリスナーに届く作品になると思います。これからも、意志の赴くままに、音を鳴らすことを続けて欲しいなと思います。Gueの音楽が響くべき人たちはもっとたくさんいて、その音が届くのを待っているはずです。

Tomohiro 今回はお忙しいなか、中身の濃い文章をたくさん送っていただきありがとうございました。まるで直接あって話しているように、考えていることが伝わってきて、非常に楽しくやり取りさせていただけました。最後になんですが、自分の人生のベスト3の音楽をアーティスト、アルバムで教えてください!

アーティスト、アルバム別ではないですよね?時期的な話もあるので少々難しいですが、革命的だったブッチャーズ、海外アーティストで1番好きなLilys、今の自分の精神に大きな影響を与えてくれたTravisの作品を選びました。

  1. bloodthirsty butchers / kocorono
  2. Lilys / in the presence of nothing
  3. Travis / The Invisible Band

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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