disc reviewTomohiroの2019年マイベストアルバムたち

tomohiro

はじめに

年の瀬も迫り迫りとなってまいりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。Tomohiroです。年の瀬の過ごし方は人それぞれ。僕はRTA(Real Time Attack) in Japanの配信をTwitchで見ながらこの記事を書いています。今「悪代官2 -妄想伝-」のランが終わりました。次はQWOPです。

去年はバタバタしてるうちに機を逃し、こういった記事を書けなかったのですが、今年は書こうと言う強い意志を持っていたので今書き始めました。書ききるぞ。

ベスト、と言うと10枚!とか区切りのいい枚数にすることが多い気がしますし、それもいいんですが、そんな感じでやると一枚一枚に肩の力が入っちゃってちょっと大変になりそうなので、今年リリースの中で聞いてた音楽をぽつぽつ思い出しながらコメントをつけていく形式でいこうと思います。

 

1. 世に出た音楽

「世に出た」の基準は僕次第なことをご了承ください。メジャーシーンで人々にもかなり認知されているであろう音楽を書いていくエリアです。

 

King Gnu 『Sympa』

今年一年で一気にメジャーシーンへ躍り出、今や「ちょっと尖った音楽が好きな一般リスナー」の羨望をほしいままにしているKing Gnuです。

そもそも常田、井口両名の顔やキャラが立ってるのもあり、そこを含めたシャバい目線(根暗からの)を送られがちなバンドだとは思うんですが、楽器隊の演奏力は非常に高いし、僕が勝手に「ポストボカロ」と形容しているエモーショナルでチャラい進行やメロディを多用した楽曲は僕ら世代にざっくりと刺さる、と思う。僕は椿屋とかが好きな人間としてそう言うのがドンピシャなので、今年結構聞きました。そこをきっちり狙って落としてきてると言う意味でめちゃくちゃ技巧派だなと思います。

“Prayer X”~”Slumberland”~”白日”あたりで一気に世間の認知を獲得していく感じはシンデレラストーリーみがあると言うか、見ていて結構グッときました。

僕が好きな曲は”Sorrows”

 

official髭男dism 『Traveler』

いわゆる「ヒゲダン」ですね。この人たち、今やJPOP第一線!って言う認識なんですが、実際世間的に彼らがヒットしたのっていつ頃なんですか?僕の友人が学生の頃によくライブ行ってて名前は知ってたんですが、音楽を聴いたのはごく最近です。

有線とかでよく”Pretender”が流れてるじゃないですか。「なんかひねったサビの曲だなー」くらいにしか思ってなかったのを最近Youtubeでフルで聞いて、イントロから結構グッときてしまった。メジャーで第一線で戦っている人たちにとってはもはや必須事項なのかもしれないですが、この人たちもめちゃくちゃ演奏が上手いですよね。King Gnuもそうだけど、ブラックミュージックからの影響が音楽をグッと引き締めている気がします。King Gnuがナード路線からの刺客だとすると、彼らはポップスからの刺客、と言うような雰囲気がある。

あとこのアルバムすごい音像がいい。それと”Pretender”のMVがめちゃくちゃいい。明らかに彼らをグッと売り込もうとしている人たちが周りにいて、それをうまく後押しに飛躍しているバンドに思います。

歌詞が、なんというかすごくJPOP的で若干尻込みしちゃうんですが、つい口ずさんじゃうんですよね。魔力。

Blasstracksばりのブラスサウンドがイントロから炸裂する”宿命”がすごく好きです。

 

Billie Eilish 『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』

世界的にティーンエイジャーの注目をかっさらった、まさに2019年を象徴する音楽じゃないでしょうか、ビリーアイリッシュ。

ホラーでゴスで、それでいてパンキッシュ。彼女の音楽と佇まいは新世代の到来を予感させる感じがしましたね。ASMR全開のプロダクションが凄まじくて、このアルバムだけはしょぼいiPhoneイヤホンで聴いてても空気感が段違いです。音楽とASMRを意欲的に融合させている、と言う面でも2019年をゴリゴリに感じさせるやはりすごいアルバム。

音楽自体もそうなんですが、Youtubeの広告で彼女が言っている「自分が作ったものは、とにかく世に出さないと始まらない」みたいなセリフに結構勇気をもらったりもしている、全然音楽とは関係ないですが。

アメリカでは”Bad Guy”で大合唱が起きるらしいですね。なんて夢があるんだろうか。

 

 

2. ジャパニーズオルタナの今

邦楽のインディーの枠で今年グッときた音楽たちです。

feather shuttles forever 『図上のシーサイドタウン』

出雲発のネットレーベルLocal Visionsよりリリースされた、都市と漁村をつなぐデュオ、feather shuttles forever。フィルムカメラで撮った写真のような、ざらついたテクスチャの乗った楽曲には、潮の香りが鼻をくすぐり、夜明けを待つ漁船のモータ音や早朝の市場の活気すら脳裏によぎるような、非常に色濃い生活感が宿る。

Tenma Tenma、ナツノムジナの粟国くん、入江陽など豪華な面子が参加する”提案 to be continued edit”は彼らの楽曲の中でも都市に近いが、まずはこの曲から入るのが順当なように思う。是非この曲をきっかけにBandcamp等でアルバム通して聴いてみてほしい。詳しくは僕が書いたレビュー読んでください。

 

ナツノムジナ『Temporary Reality Numbers』

我らがナツノムジナ、2019年リリースの新作。基本的に〇〇年の音楽、となると、その年初めて出会った音楽が印象に残ることが多いと思っていて、その中でも2019年のリリースがドンピシャだった音楽をこの場では紹介していくことになると思っていたのですが、ナツノムジナに関しては今作もすごかったです。

前作『淼のすみか』までの彼らはどこか沖縄を感じたというか、彼らの背景にあるものが伸びやかに表現されていて、その美しさがあったのですが、今作はいよいよ沖縄という枠にとどまらず、より背景を広めて多くのものを描こうとしている、そんな作品です。そんな今の彼らを描き出す、それゆえにTemporaryで、Realityなのでしょう。何より本当にすごいのが、彼らの音楽が美しかったのは、「沖縄」だったからではなかったことが本作で証明されたことだと僕は思っています。一つの光景を描いてきた彼らが、点としての光景の描写から、時間という概念に足を踏み込み、線としての光景を描き出した”優しい怪物”は本当に素晴らしい曲です。「晴れた日の朝に私は歳を取って」という一節は今年僕が出会った中で最も情緒のある歌詞だった。

 

国府達矢『スラップスティックメロディ』

国府達矢復活の狼煙として世に投下された”薔薇”が率いる『ロックブッダ』は間違いなく2018年のマスターピースだったわけで、その時点で彼はまだアルバム数枚分のリリースを準備しているという発言をしていて、その続報が非常に気になっていたところだったのですが、そこに2019年投下されたのが、『スラップスティックメロディ』、『音の門』の2枚。

弾き語りを中心としたストイックな作りだった『音の門』の挑戦的さもさることながら、やはり、『スラップスティックメロディ』の持つ、00年代前半のJRockの息遣いは見逃せないものでした。今の国府達矢の持つエキセントリックさも時に感じさせながらも、主軸は彼がMANGAHEADだった頃のギターロックに置かれているように感じます。ふくよかで透き通ったギターの鳴りと穏やかなミドルテンポの描き出す濃紺に、『ロックブッダ』からの振り幅を思い驚く人も多いでしょうが、そこにこそ今作の魅力はあるように思います。

まずはアルバム一曲目の”青の世界”が大名曲。

 

THE T.V. DINNERS『8 songs』

Climb The Mindと双璧をなす名古屋のエモレジェンド、THE T.V. DINNERS活動再開後初めてとなるフルアルバム。Dancebeachとのsplit 7inchの『ETERNAL ROMANTICIST』や、単独7inchでの『哀愁の街に灰が降る』など、活動再開後も確実にその足跡を残し続けてきた彼らがついにアルバムをリリースするとなった時には、相当僕の気持ちはハチャメチャに踊りました。そしてその作品が、20年前から変わらない彼らの熱量をそのままに内包したものだったことも含めて、この作品は僕の2019年のスタートを非常に強く後押ししてくれたと感じます。ハードコアパンクの息吹を生で感じ、そこに生で歌をぶつけていた彼らが描き出す闘いの音、時代に真っ向に刺さっていくスタンスとしての音楽はいつでも強い芯を持っている。

“LETTER”はそんな彼らの今を描き出す、次のマスターピースになる一曲。bookshelf distroにて販売しておりますので、気になる方は是非。サブスクにはないのです。

 

3. 気鋭のギターロック、宅録世代の躍進

新世代とも言える宅録音楽の躍進はここ数年のシーンの主要トピックスとも言えるでしょう。そんな中で僕が特に聴いていた2枚です。

君島大空『午後の反射光』

 

音に詰め込まれ、それでもなお溢れ出す圧倒的な情報量に脳が揺さぶられたのが、この一枚。日本のギターロックを大前提としながらも、その延長線上のハードロックやサイケデリズムにも到達する、入り組んだストーリー。それを耽美に、かすれた絵筆のようなざらつきとみずみずしさを持って描き出す表現力は並大抵のものではなく、初めて聴いた時にはただただ感嘆の声が出るばかりだった、そんなアルバムです。

夕暮れの空が色を失っていく瞬間のような人肌の絶望感を纏う、”午後の反射光”が僕は好きです。

 

笹川真生『あたらしいからだ』

インターネット世代の宅録アーティストたちが描き出してきた、次の時代のハイブリッドミュージックは、非常に密なリスペクトとオマージュによって練り上げられている。笹川真生もまたその一角を担う音楽であり、また彼の音楽からは同世代へのリスペクトを特に強く感じる、ように感じます。メロディラインの描き方や音像の作り方、それぞれに彼に影響を与える友人がいて、そこから生まれた音楽がまた、その友人たちに影響を与えていく。巡りのいい血の交わり方をする中で生まれた彼の音楽は、フレッシュであり、アナーキーであり、そしてそれらを包含して有り余る繊細さがあり、透き通ったプラスチックのような、割れないワレモノのような不変性と危うさが同居するのです。

コーラスの乗ったベースリフが歌う名曲、”なんもない”は必聴。

 

 

 4. 今なお世界で息づく、激情の息吹

ここまでほとんど日本の音楽でしたし、歌モノが中心でしたが、僕はやっぱりハードコアが好きで、今年も彼らの叫びにはたくさん元気をもらいました。そこから紹介します。

Albatros『Futile』

カナダの激情10年選手、Albatrosが繰り出す最新作はホーンセクションも大体に取り入れ、激情のまろび出す疾走感はそのままにより混沌さを増した奇怪な作品。今やDoom Ska quintetを名乗り、その漢汁溢れる叫びはどこへ向かうのか、止まる所を知らない”怪”進撃には激情フリークも流石に肝を抜かれる思いだろう。

そもそも、US、欧州、北欧と大別され、それぞれに独自のカラーを持つ激情シーンにおいて、彼らの鳴りはUSの大陸感を持ちながらも、ホーンセクションや男臭い叫びが醸し出す、滲み出るような男の哀愁はかなり欧州寄り。そういった背景の混ざり具合を考えながら聞くのもこういったマイナージャンルの楽しみ方だと思います。マスタリングはOrchidよりWill Killingsworth先生とのことで、こちらもフリークとしては押さえておきたいところ。

“Y’a Faite Crotteau”から入ってみましょう。

 

Shin Guard 『2020』

Albatrosとは打って変わって、ペンシルバニアより若手4ピーススクリーモ、Shin Guard。US激情ながらも、粒度細かく歪むシャウトやメロディアスな展開をのぞかせる様子は北欧激情の血を強く感じます。カオティックハードコアな多動的多展開も得意とし、叫ばずにはいられないようななにがしかの衝動をぶつける。この衝動に打ちのめされるのが、激情を聞いていて一番気持ちがいい時です。この曲も最初聞いた時に、イントロのブリッジミュートから既に抑えきれない怒りが滲み出してくるような赤黒さがあり、ただ事ではない高揚感を覚えました。後半の流麗なブラックゲイズ的リフが秀逸な”2020″と迷いましたが、ヒリヒリ感の強い”Kennedy”を推しておきます。

あとこのアルバムはゴッシャゴシャのバキバキに歪ませたミックスなのですが、それがまた何かしら感情の発露のように感じられてとてもいいです。

Sore Eyelids 『avoiding life』

北欧激情の至宝であり、レジェンドであるSuis La Luneは、惜しくも解散してしまいました。流麗で冷たく、非常に感傷的なフレージングと泣き叫ぶようなシャウトで一つの大きなジャンルを切り開いた彼ら。あまりに惜しまれる解散ではありましたが、ボーカルのHenningがいまだにこうして音楽を続けてくれているのは本当に喜ばしいことです。

シャウトのない歌モノでこそあれ、彼が掻き鳴らすギターから聞こえてくるのは、間違いなくオリジネーターの説得力を持ったフレーズであり、それが20年近くたっても変わらず疾走を続けているのは奇跡に近いのかもしれません。シューゲイザーと激情の血を引き、歌モノとしてアウトプットされた彼の今の音楽、その説得力はSuis La Luneと比較しても全く衰えていません。”Everything’s a Waste”のサビの、厳冬を思わせる冷たい疾走感には思わず涙が滲みました。

 

 

5. うねるモダンヘヴィネスの胎動

重たい音楽で哀愁を歌わせたら結局アメリカ人よりできるやつはいねぇなと思わされる日々です。

Cave In 『Final Transmission』

 

僕が初めてCave Inを聴いたのは、彼らが最もメロディアスな方向性に振り込んでいた2003年作だったので、そこから全ての経緯をすっ飛ばして耳に入ってきたこのアルバムにはかなり驚かされました。そもそものCave Inとはメタル産のヘヴィネスを織り込んだ、ギリギリオルタナにぶら下がる、そんな音楽性であったということですね。

という経緯はともかく、このアルバムには、噛むほどに染み出す肉汁のような非常に濃い旨味があり、時に芝居がかるギターリフと轟音に埋もれながらも、大人の涼やかさをのぞかせるグランジエモ的ボーカルが聞こえてくると、ドバッと脳汁が溢れてくる、そんなカタルシスがあります。ex-Isisのアーロンターナー御大のhydraheadからのリリースであることも、またこの音像の説得力を増している感じです。ギターリフがコッテコテの”Winter Window”とどちらを挙げるか迷ったが、遠大なスペースギターの背景でドラマを描き出すベースとドラムの美しさが文字通り血を揺らす”Shake My Blood”に軍配。

 

Torche『Admission』

 

歪ませすぎて音は潰れまくってるし、オーディオだって悲鳴あげるわという感じなのですが、ここまでやり切られると不思議な清涼感を感じてしまうんですよね。アメリカのヘヴィロック15年選手、Torcheの新作がRelapseから出ました。冒頭にも書きましたが、こういうクソ重たくて鈍重な音をメジャーシーンに乗せるような清涼感を持って練り上げられるのはアメリカ人の特権だなと思います。もはや説明不要なグルーヴィリフにニヤリとしてしまえばもう向こうの手玉に取られたようなもの。どこかひょうきんにも思えるスローテンポのリフが殴りつけるように繰り返される”Slide”が僕のお気に入り。

しかし、ここまでローミッドあたりをミチミチに詰めたブッチブチの音像をある種の「いい音」として聞けるようになったのは、なんとも「分からされてしまっている」感じがありますね。

 

 

6. 時を越え、変わり続けるインディーロック

インディーロックはここ数年で一気にエレクトリックな要素が増えた感じがするというか、生な音像よりもバッチリ密度のあるローミッドやシーケンス、ストリングスなどが好まれているような気がします。大体2016年のBon Iver『22, A Million』以降で決定づけられた流れにも思えますが。ベテランたちもその流れに呼応し、素晴らしい新作をリリースしました。

Copeland 『Blushing』

 

00年代初頭の、オリジネーター以降のエモ拡張期にピアノを大胆に取り入れた美麗な作風でファンを獲得したCopeland。当時から白眉だったメロディのセンチメンタルさはそのままに、ボコーダーを取り入れたり、より空間を感じさせる大きなリズムの取り方など、明らかに冒頭で示したBon Iverの2016年作以降のUSインディーへの返答だと断言できると思っています。

エモとなると、初期にはその衝動感や青臭いメロディ、フレージングが賞賛の対象でしたが、彼らはそれをよりセンチメンタルで荘厳な方向性に進化させ続けてきて、確かアルバムとしては10年ぶりくらいだと思うのですが、今作をリリースしたわけです。ベースのフレージングが今作全体の浮遊感を演出していると言い切っても過言ではないほどにベースが仕事をするアルバムです。洗練されてきたエモの先にあった、薄霞のかかった雪に埋もれる街のような、静謐な叙情が溢れる名作です。今年の新作で一番聴いたかもしれない。

“Lay Here”がお奨めの一曲で決まりです。異論なし。

 

The National 『I Am Easy To Find』

 

99年の結成以降、継続的なリリース活動を続け、 2018年にはグラミー賞も受賞した、USインディーのトップクラスに座するThe National。今年リリースの8thは、マットの心地よいバリトンボイスを包み込むように展開されるピアノ、女性コーラスによって、その噛みしめるような魅力が引き出され、拡げられている美しい作品。メンバーのデスナー兄弟はBon Iverとの共作でも知られ、まさに現行USインディーを牽引する存在とも言える。

なんとなく、Copelandと合わせて今年のUSインディーの方向性を大きく示した2作だと思っています。そう思って見ていくと、ストリングスと合わせてボーカルの叙情性を広く高めていったCopelandと、あくまでもマットの声の持つ叙情性を開拓していくように楽器が音を添えていく、The Nationalはなんとなく対称的な気がするんですよね。

忘却を意味する”Oblivion”は今作の方向性を象徴する一曲だと思います。

 

 

7. 枠でくくれなかった今年の名作

ここまでは系統立てて紹介してきたのですが、まとめ難い傑作がまだ何枚もあります。まとめるのを諦めました。それらは以下に。

 

Dos Monos 『Dos City』

 

JPEGMAFIAを擁するDeathbomb Arcとのリリース契約を結び、デビュー作にして日米同時リリースの快挙を果たしたヒップホップユニット、Dos Monos。正直言ってヒップホップは全然明るい領域ではないので、あんまり掘り下げたことは書けないのだが、不穏でドープ、インターネットカルチャーからの影響もビンビンのディストピアな音を投げつけてくる彼らは決して素通りできるものではなかった。

ジャズフューチャーの涼やかさとおどろおどろしさを兼ね備えたトラックには、作曲を担当する荘子itのセンスが光り、Nujabesみたいに叙情的でもなく、最近の呂布カルマや色々によく聞かれるダークなトラックに寄りすぎているわけでもない、どことなく軽やかな不穏さを持ったこの無国籍的なトラックがすごく響きました。

まさにその涼やかさと不穏さの混沌を表す”アガルタ”がおすすめ。

 

Sault 『7』

 

ロンドンからの刺客ともいうべき、完全覆面の正体不明音楽ユニット、Sault。ポストパンクの線上に位置する音楽ながらも、そこに潜むアシッドな質感と全体を調和するファンクな軽快さが非常に技巧的で舌を巻く。今のインターネット世界で、完全覆面でこのレベルを音源を繰り出してくる不気味さはインターネットミームの気配すら感じさせる。本当に生身の人間なのか?まるでサイバーパンクの世界だと恐ろしがっています。

ポストパンクを通ってきた人間でなくても、ストイックに制限された音数と完璧に構築されたポップスゆえに、あまりに普通に聴けてしまう。そして癖になる、実によくできている音楽だな、という感想に尽きる一作。ぜひ聴いてみてください。

おすすめは”No Bullshit”。

 

Brad Mehldau 『Finding Gabriel』

 

アメリカのジャズピアニスト、Brad Mehldauとマークジュリアナが5年ぶりにタッグを組んだ今作は、荘厳なコーラスが乱れ飛ぶ、清潔さと妖艶さを持ち合わせたジャズシーンを牽引する彼の独創性が爆発した作品。時にナイーブに、特に情熱的に展開するマークジュリアナのドラムプレイによってより深みと物語性を増した一大叙事詩は、聴くものに不思議な高揚感と今これを味わっている、という優越感を与えてくれるもの。ゴージャスな気持ちに耽りたいときに聞きます。まずはアルバムの導入、”The Garden”から、ずっしりと没入していく一枚。

 

武田理沙 『Metéôros』

 

北海道出身のジャズミュージシャン、武田理沙の2nd。全てのサウンドプロダクションを自ら行う、いわば宅録アーティストとしての側面も持ちながらも、ジャズピアニスト、ドラマーとしての活動が注目される彼女が2018年にリリースした1st album『Pandora』は130分超2枚組の全てを自ら演奏、プロデュースした怪作として、界隈をざわつかせた。爽やかな表情のジャケットに似合わない、ソーセージファッターも真っ青の海苔マスタリングでミチミチの音圧に仕上げられた2枚目などは、もはやノイズハードコアの領域。

そこから次作となる今作では、まさかの9曲中8曲に歌入りという意表をつく構成で、またそれらに染み出すジャズにとどまらない、テクノ、プログレ、果てはゲームミュージックやアニソンとごちゃ混ぜのバックグラウンドから繰り出されるトラックに乗せられる歌の想定外のイノセントさにまた驚く。個人的なオススメはアニソンまっしぐらな”HEADSHOT”なんですが、より間口広く伝わるためにも”沈める月”をチョイスしました。”ゼロと無限のQ明”や”断頭台の灯”など、他にも言及したい曲がいっぱいあるアルバムです。

 

kumagusu 『夜盤』

 

今年のベストアルバムとして書くアルバムを決めて、もはやこの記事も書き始めてからうっかり聴いてしまい、ベストアルバムに加えざるを得なくなってしまった、kumagusuの2019年作です。Klan Aileenとのスプリットのリリースや、EXTRUDERSなどを匂わせるシャープな音楽性は日本産ポストパンクに列席しつつも、散文詩的で生活感のある詩は、その名を拝借している南方熊楠の執拗な観察眼が吐き出した文章をも思わせる。いわばシュッとした要素と在野の詩人要素が絶妙に混ざり合った結果、カテゴライズされない音をはじき出すに至った、そんなオルタナティブの先鋭の一角だと感じます。生活に染み込んでいくシンプルな音像が、そこに重ねられた思いがけない色味の多さにただ聴いてたはずがただ聴いてるだけではいられなくさせてくる、不思議な一枚。

 

猫を堕ろす 『サウンド・リクルーティング ONLINE』

 

シニカルポップバンド、猫を堕ろすより、『サウンド・リクルーティング ONLINE』です。テクノ、パワーポップ、ヨーロッパインディーからの影響を原材料にまとめあげ、多様なオマージュを散らして仕上げた本作は、決して半端な先人への向き合い方では作り上げられなかった作品です。時としてExplicitな鋭さを出しながらも、生活と思想が描き出される詩は、このバンドだからこそ馴染むのであって、そういったキラキラして多幸感を持った音像とビターな詩が彼らをシニカルと言わしめるのだなと思います。

また、今作は多様なゲストアーティストのリミックス集も付属しており、これも含めて、猫を堕ろすの「今」のあり方、繋がりを表す音源になっていると思います。

どこかひねくれた彼らのポップスはひねくれている多くの人の耳に届き、多くの人の2019年を彩ったのではないでしょうか。彼らの今までのキャリアでも間違いなく最高傑作でしょう。僕の2019年を象徴するアルバムです。

 

あとがき

というわけで、非常に長々と書いてしまい、29日に書き始めたのに31日になってしまいました。

まぁ、短くて物足りないことはあっても長くて困ることはないと思うので、皆さん暇な時間にでもちょこちょこ読んでくれたら嬉しいです。

今年も、以前より音楽を聴く機会は減ったように感じながらも、なんとかここに上げたものの倍以上の2019年作の音楽を聴くことができました。そこから特に印象的だった作品を紹介させてもらっています。

今年もたくさんの音楽が、僕の生活を縁取り、時に組み上げてくれました。人の創作に触れるということはいつでも根源的なエネルギーをもらえる、そんな行いです。良き音楽へ、本当にありがとうございました。来年もたくさんの音楽との良き出会いがあることがとても楽しみです。

その一発目となる2020/01/18のインターナルミーティング、どうぞよろしくお願いします。(宣伝終わりなのか)

紹介記事その1

紹介記事その2

flyer

皆産、今年もお世話になりました。来年も今まで通りのcllctv.であれるように頑張ります。よろしくお願いします。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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