disc review2017年ベター10アルバムfromTomohiro

tomohiro

みなさん、今年も一年cllctv.をお引き立ていただき本当にありがとうございました。

今年はcllctv.の名前での企画ライブ(うち一度は僕の個人企画ですが)も2度開催することができ、それ以外にも個人的にめまぐるしくたくさんのことを動いた年だったので、今年の頭に何があったかを思い出してみると、それが2017年であるという事実に驚きます。正直bookshelf vol.2とか去年やったつもりでいました。cllctv.というコンテンツの発信地が名古屋であり、そこにまだ届いていない音楽を生の感覚で伝えるのが、大げさに言えば使命だなという気持ちで僕はイベントを企画しています。なので、レコ発で再び来てくれたベランダ、Gue。そして今回初名古屋ということで僕の呼びかけに快く答えてくれたナツノムジナの3バンドには特に強い気持ちがあります。(もちろん一緒に出てくれたOphill, Cookie Romance Nonsugar, Primacasata, headache, スーベニアも大好きです。大大大好きです。)

今年はこの2度のライブを中心に、メールインタビュー、ライターの対談企画(毎回思うがこれは誰得なんだろう)等行ってきましたが、コンテンツとしての充実度はまだまだ今後の課題だなと思います。これは実質4人(うちライター二人)で切り盛りしている限界なのかもしれませんが、せっかくだからもっといろんな方法で音楽の発信をしていきたいですね。

 

さて、タイトルはベター10です。なぜベストじゃないのかっていうのは、なんかこう、ベストだと言って今年聞いた他のアルバムと一線を画すには、少し上位10組とそれ以降の境界線が曖昧だなと思ったからです。

そんな僕が今年聞いて来た中でも特に打ち込んで来た10枚のアルバムたち。その紹介をしていきたいのですが、まずはその10組とは一線を画す、僕にとってすごく大事な3枚のアルバムの紹介です。

 

ベランダ『Any Luck To You』

 

ベランダは、今年めちゃくちゃに躍進したバンドですよね。彼らのことを知ったのは去年の5月のGueの企画で京都に行った時。初めて”最後のうた”を聞いた時の絶望的に胸が締め付けられる感覚は忘れがたい。そして、今年1月15日にリリースした1stアルバム『Any Luck To You』。MVも公開されている”早い話”を始め、僕らの企画で演奏した際の動画もある”野球部のノリ”のような、しゅわっとした切なさと甘さをはらんだポップ性を新たに打ち出し、とてもとても多くのリスナーの心を捉えました。でも僕が収録曲で一番好きなのは、”巨大魚の夢”。「自動販売機の明かりが満月よりも弱い」情景がわかりますか。これは僕の原風景なんですよね。田舎の暮らしは、都会よりずっとずっと夜が暗くて、その時の静かな威圧感の中で、月の柔らかな明かりや自動販売機の「文明の明かり」はとても心強く光るんです、儚くても。その時の気持ちをこの曲はすごく思い出させてくれる。ライブで初めて見た時からずっと音源化して欲しいと思っていたから、これはすごい嬉しかったですね。

Gue『Luminous』

 

同じく京都より、Gueです。今からすごく大口を叩きます。僕と言えばGue、Gueと言えば僕だと思っています。それくらい僕はこのバンドに熱を入れて来ました。初めて京都で対バンした時から、ずっと。今年は活動を続ける中で、ベーシストたかしさん、ドラマーのまきおさんの脱退もありましたが、それでも意欲的に、精力的に活動を続け、名古屋にも再び来てくれました。

今年の新譜『Luminous』は本当に眩しかった。実はGueのメンバーとは個人的に仲良くしてもらっていて、去年の秋京都に一人で遊びに行った時も、一緒にお酒飲ませてもらったり、今年もメールインタビュー企画させてもらったり。そういうつながりの中で、新譜が上がりましたって言って、僕に音源を送ってくれたんですよね。まだメンバー以外のほとんど誰もが聞いていなかった新譜の音源。どの曲も本当にキラキラしてて、眩しくて、でもやっぱりGueだから力強いしちょっとだけひねくれてるし、言葉に言い表せないものがありました。その時になかなかうざいくらいの長文の感想を送ったんですが、そこでやり取りしていた話がのちのメールインタビューにもつながったりしたわけです。

3枚目という立ち位置、すごく勝負の一枚だなと僕は思います。初期衝動の1st、軸を固め始める2ndという流れを踏まえた中で、これだけのまっすぐで眩しくて、でも土の匂いのする、躍進の3rdを出してくれたGue。本当にこれからも応援していきたいです。応援させてください。

ナツノムジナ『淼のすみか』

 

日本全国のオルタナボーイの憧れの的、ナツノムジナ。沖縄からうだる暑さと、その中で映える鋭い冷たさをその言葉と演奏で東京へ持ち込んで来た彼ら。1stデモ以降、カセット、7インチと少しずつシングルを小出しにしながらの、待望の1stフルアルバム。このリリース直前のすごく脂がのった時期に、彼らを名古屋に初めて招待することができたこと、僕は本当に良かったなと思っています。彼らは楽曲の完成度、ライブの完成度、その全てがすごく高次元でまとまっていて、まさに呑まれてしまうような、そんな感覚を覚えます。そして軸を持ちながらも楽曲ごとに振れ幅をすごく大きく見せてくる、懐の広さ。本当に怪物のようなバンドだなと、改めて『淼のすみか』を聞きながら思います。このアルバムは僕は何と言っても”天体”のアルバムアレンジです。本当に聞いてください。だから買ってください。このシンセフレーズを聞くたびに涙が出てくる僕は。

 

この3バンドに共通するのは、その言葉の美しさだなと僕は思います。感覚を表現するための演奏にある程度のガイドラインはあっても、言葉を選ぶ行為にそれはありません。その中でどれだけ美しい情景を言葉から描き出せるかというのは、文字書きである僕の永遠の課題でもあるように思えます。そんな僕のもがきを蒸発させるようなまばゆい言葉の数々。洋楽とかもはや言葉のわからない国の音楽とかたくさん聞いて来ましたが、結局日本語の歌の美しさにはいつでも心の最初の部分が揺らせれることを再確認できるリリースたちでした。

 

 

ここからが本編であり、ある意味でおまけです。ベター10!順不同!

1. Real Estate 『In Mind』

 

これはもう、本当に、もう。

今年は木曜の夜発でフジロックに全日参加して来たわけなんですが、今年の僕の目当ては実質Real Estateだけだったと言ってもいい。ベストアクトだったかって言われればそれはまた違うと思うんですよ。今年のフジロックはThe XXっていう異空間を苗場に生み出したバンドがいたので。でも間違いなく一番思い入れのあるアクトです。Real Estateは本当に楽曲の質がいいですよね。去年のWhitney枠ですよね、この新譜は。

ちょうど彼らの出番直前、僕は一緒に行った友達とテントとかを車に積み込んでいたんですが、どうしてもReal Estateだけは見たくて、そもそもこれのためにン万払ってるようなものだったので、友達にめちゃくちゃ頭を下げながら、凄まじいダッシュでホワイトステージまで突っ走り、なんとか間に合ったという。ホワイトステージが近づくにつれて聞こえてくる音漏れに膝から崩れ落ちそうになりながら走ったのは今年一のエモでしたね…。

 

2. Blis 『No One Loves You』

 

blis.?blis?未だに表記ゆれが多くてちょっとわからないんですが。このバンドは今年のニューカマー枠です。完全に。もともとどっかのレコ屋の入荷情報でジャケットだけは知ってて、でもそんなに気に留めてなかったんですが、ローパスのかなざわさんがツイッターでSERGENT HOUSEの虎の子ですごいかっこいいみたいなことをツイートしてて、いやいや、SERGENT HOUSEの虎の子がハズレなわけないでしょ。という気持ちで聞いてぶっ飛んだアルバムです。ハイトーンでジュブナイルな親離れできない系泣き虫ボーカルが、ゴリゴリに生々しいグランジオルタナ、シューゲイズをバックに叫ぶ叫ぶ。こんなの好きに決まってるわなという、逆に開く悟り。

さすがSERGENT HOUSEだなと思うのはその録り音の素晴らしさで、本当に音の良さでいえば今年聞いたアルバムの中で一番だと思っています。

 

3. スーパーノア『Time』

 

京都の隠し財産、スーパーノアです。ベランダのたけおくんがすごく熱を上げている様子を見て知り、ズブズブにはまりました。名古屋でのライブも見ました。最高でした。

結成から10年を超え、そこから発される円熟のインディーロックの口当たりのまろやかさは20年もののウイスキーのような黄金色で、その中に秘められたあまたのフックが気品よく香り立つ。特に”What Light”は7分超の長尺ですが、本当に無駄なく一瞬で過ぎていく多幸感に満ちた7分間でたまらないです。セルフライナーノーツで語られる各曲へのこだわりが半端ないのでそこを読んでこのアルバムを500%味わってほしい。

 

4. Climb The Mind『チャンネル3』

 

仮にもジャパニーズオルタナ/エモに触れて来た人間として、これを上げないのはモグリって言われても仕方ないなと思ってしまう。名前だけで語るならそれはどうかと思いますが、実際内容がこれなので…。 前作『ほぞ』から7年。ついにリリースされてしまったクライムの新譜は、やっぱり最高で、童話の世界のようなフォーカスのぼけた歌詞世界と爆発的に歪んだギター。結成から年数が経ち、このタイミングでファズに出会った山内さんのジューシーな歪ませっぷりが、純朴さを感じてしまう。今年は『ほぞ』のアナログリリースもついにありましたし、クライムにとっては非常に動きのあった一年でしたね。

“ポケットは90年代でいっぱい”、イントロからもう号泣です。

 

5. Arca『Arca』

 

Arcaが初めて音楽シーンにその姿を現した時、その衝撃は相当なものでしたよね。各所で議論を巻き起こした孤高のアブストラクトアーティスト、Arca。しかし、もし仮にこのアルバムが最初にリリースされていたらこれほど彼は鮮烈な歓迎を持って迎え入れられなかったのではないだろうか。それほどにこのアルバムは「普通に歌モノ」しているんですよね。正直このアルバムはかなり評価が分かれたんじゃないかなと思います。でも僕は初期の激烈にアブストラクトだった彼が、セルフタイトルでもってこの音楽を送り出したのは、胎動を続けていた彼の感性が、ついに産み落とされたような、そんな鳥肌の立つ黎明を意味しているように思えて、すごく重要な一枚だと感じています。今後のArcaはどう変容していくのか。

 

6. Arms and Sleepers『Life Is Everywhere』

 

Arms and Sleepersは永遠に僕の厨二心をくすぐり続けてくれるエレクトロニカ。アルバム『Matador』との出会いは衝撃的で、その全てがセピア色の感傷に彩られたシネマティックな世界観に、「これだ…」以外の感想が思いつかなかった。彼らは結構活動的で忘れられない程度のペースでアルバムを出しているので、なん年ぶりの〜とかそういう枕詞はないんですが、今年の新譜はすごくビターでシックで、ヒップホップのムーヴメントに、アブストラクトヒップホップ的な手法でエレクトロニカから迫ろうとしている感じがすごく示唆的で良かったです。アルバムもヒップホップ偏重の濃密さが気持ちよかった。レコードで聴きたくなる音楽です。

ちなみに来年出るらしい新譜のイントロダクションがすでに公開されているんですが、退廃的なギターアルペジオが郷愁を誘う雰囲気がかの『Matador』を思い起こさせ、今から期待感が半端ないです。国内のレコ屋でもっと扱ってくださいお願いします。

 

7. Among The Sleep 『Among The Sleep』

 

日本のモダンメタル期待の新星、というか大本命ですよねこれ。今年その超絶テクニカル+今までになかったプレイスタイルで世界中のギタリストの注目を欲しいままにしたichika氏とex. abstractsのgen氏両名によるインストメタルプロジェクトです。最近はabstractsとかEarthists.とか日本のモダンメタルもかなり世界水準のクオリティに上がって来たなって思うんですが、やはり不安を覚えてしまうのが、ライブで見た時どうなのかという点なんですよね。これはもちろん例外はあるものの、東洋人の筋力不足によるドラマーのパワフルさ不足と、デスボイス、ハイトーンボーカルに向かない声質ゆえの歯がゆさみたいな部分で、そういった意味で言えば逆にめちゃくちゃ振り切れた卓上だけのプロジェクトとかもっとやってほしいなって思うわけなんですよね。まずはその思いを叶えてくれた点と、ichika氏のクリーントーンだけじゃないギタープレイが存分に聞けるという点で、僕は彼のソロ作よりこちらを推したいですね。

 

8. heaven in her arms『白暈』

 

最近、envyが国内において、激情系の要素にポストロックを組み込み、heaven in her armsが激情系にブラックメタルを組み込み、それ以降の国内の激情はそれらの後追いだ、というような言説を見かけました。すごく的を射てるなーと思うと同時に、いやいや、それで語るのは流石に暴論だぜとも思うわけなんですが、今年のheaven in her armsの新譜は完全にメタリックな色が強くなりましたよね。”月虹と深潭”なんかはのっけからブラックゲイズ感マックスで、deafheavenとの帯同ツアーなんかの影響もありそうだなーと思いましたが、”円環を綯う”とか”赦された投身”なんかのメカニカルなフレーズは結構もろにメタルだなーと感じました。そういった意味でガラパゴス的に発展していた音楽が世界の流れの中に組み込まれていく様を見ているようでなかなか見ごたえがあります。もともと海外人気は高いですが。こういった変化が鮮烈だったという意味で今年結構聞き込んだアルバムです。

でも実はライブを見た影響で最近はすごくファーストを聞いているし、アルバム中でも一番好きなのは、COHOLとのスプリットでも収録されていた、おそらくアルバムの中では古めな”終焉の眩しさ”なんですけどね。

 

9. skillkills『The Shape of Dope to Come』

 

これを選んだのはライブを見た影響がめちゃくちゃ大きいです。日本が誇るビートずらしグルーヴァー、skillkillsの最新作です。僕はこのアルバムタイトルはRefusedのアレだと思ってたんですが、最源流はオーネットコールマンの”The Shape of Jazz to Come”らしい。これどうやって叩いてるんだよって感じのアクロバティック4拍子ともはや何を弾いてるのかさっぱりわからん奇怪なベースフレーズでクソドープに下地を固めながらも、歌うパンチラインが結構俗っぽいというか、ゆるい感じなのがギャップ萌え的な魅力だなと思います。このバンドのグルーヴは本当にすごい。まさかあの意味不明ビートであんなにライブが踊れるとは思いもしなかった。ゴリゴリのライブバンドですskillkills。

 

10. NieR:Automata 『NieR:Automata Original Sound Track』

 

最後だけちょっと毛色が違うんですが、このアルバムはマジで2017年すごい聞き込んだのでここに入れねばならんのです。そもそも僕がプレイした2017年ベストゲームがニーアだといってはばからないくらいニーアにはどハマりしていて(公式生放送の録画全部3回は見ました)、それはやはりそのあまりに美しくて残酷なストーリーに惹かれたからなのですが、そこを盛り上げるサウンドトラックがまた、どの曲も素晴らしいんです。ゲームをプレイし終わった後、余韻を味わい続けたい、ゲームは終わったけどまだニーアの世界に浸っていたいとの思いで購入したサウンドトラックですが、曲を聞くたびにあのシーンやこのシーン、辛かったことばかり思い出されて必ずしも幸せなだけの余韻にはならなかった…。

国産ゲームのサウンドトラックって、”日本式クサメロの集大成”って感じで、あれやこれやの手段で湧き出てくる量メロたちを聞かせに来ている、その実ものすごく精密な音楽だと思うんですよね。その世界に触れるきっかけとなったという意味でも、このアルバムは僕にとってすごくエポックメイキングな一枚でした。

 

 

と、そんなわけで10枚のアルバムを紹介しました。あなたの10枚と重なったりもしたかな?最近は必ずしも新譜ばかりを追う生活ではなく(2017年一番聞いたアーティストはキリンジと平沢進なので)その限られたリソースの中から10枚を抽出するのは難しかったのですが、なんやかんや遡っていくと、これだけたくさんの素晴らしい音楽に出会えていたんですね。来年もこうでありたいものです。みなさん良いお年を、来年もcllctv.よろしくお願いします。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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