disc review垢抜けないメロディで綴る、千鳥足の白昼夢

shijun

Fast Moving CloudsSarah Bethe Nelson

release:

place:

サンフランシスコの女性シンガーソングライター、Sarah Bethe Nelsonのデビューアルバム。シンプルかつサイケデリックで平熱な楽曲に、60’sPOPSのような垢抜けない切ないメロディラインが乗る、これが非常に心地よい。基本はスローテンポながら、リズムには独特の不安定な揺らぎが存在しており、それによって生まれる奇妙な酩酊感も心地よさの一助になっている。

スローテンポな#1「Start Somewhere」。ポップとして成立する最小単位まで削ぎ落としたようなシンプルなギターとドラム。しかし思わず体を委ねてしまうのは何故だろう。不思議と明るく聞こえるアウトロのギターソロも良い。幾重にも重ねがけされたボーカルが奇妙な浮遊感を醸し出す#2「Impossible Love」。ふらふらとした安定しないリズムが逆に心地よい#3「Black Telephone」。Peter, Bjorn and Johnの「Young Folks」を中華風にしたようなフレーズの繰り返しも印象的。三味線みたいな音の単音ギターとベースが不安定なリズムでユニゾンし続ける#4「Snake Shake」も凄まじい。そんな奇妙な演奏すらボーカルも相まってめちゃくちゃ切なく聞こえるのだ。後半に現れるアトモスフィックで優しいシンセもたまらない。

表題曲#6「Fast Moving Clouds」は珍しく主張の激しいドラムが聴けるポストパンク風の楽曲。リズム隊中心に組みたれられた楽曲の中でひっそりと鳴るフリーキーなギターがたまらない。60’sダンスポップを抜群のインディー気質とスロウコアで包んだような#7「Soft Eyes」。サビの途中で現れる割とありがちなフィルが特異なものに聞こえたら、この世界観にすっかり魅せられた証拠だろう。上質なメロディをゆったりと楽しめるミドルテンポギターポップな#8「Uneasy」。6分越えの大作#9「Every Other Sunday」では上質で甘美なギターをこれでもかというほど堪能できる。終盤は少しずつテンポが上がっていき、このアルバムでは珍しいアップテンポな展開も聴ける。#10「We’re Not Dead」は#6にも似たメランコリックでサイケデリックなポストパンク調。ギターソロ後の展開は圧巻。

独特の酩酊感に身を任せ酔いしれるもよし、ぼーっと聞き流しながら優しくも儚いメロディラインを堪能するも良しなアルバムである。日本は愚か海外での注目度もまだまだな彼女ではあるが、インディーポップやポストパンク、スロウコアなどを愛聴している方には是非とも手にとって欲しい一枚。DaughterやWarpaintあたりのファンにも。

 

WRITER

shijun

ポップな曲と泣ける曲は正義です。female vocalが特に好きです。たまに音楽系のNAVERまとめを作ってます。なんでも食べます。

このライターの記事を読む