disc reviewドラムボーカルからトリッキーに攻める、10年代型スワンコアの尖兵

tomohiro

WakeHail The Sun

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カリフォルニアの変拍子乱打系美声ポストコア、Hail The Sun。今回は、その出世作とも言える、Blue Swan Recordsからのリリースであった、”Wake”について触れてみようと思う。Blue Swan Recordsとは、Dance Gavin Dance等でギターを務めるWill Swanの設立したレーベルであり、自身も参加するSianvar等、ポストDGD周辺の位置付けを狙うバンドたちを擁する。

 

デカイヒゲもじゃのおじさんがWill Swan。

 

そもそも、Dance Gavin Dance、並びにTides Of ManなんかがRize Recordsの中でも異質な存在感を放っていることを感じていたスクリーモリスナーは少なからずいたのではないだろうか。

目まぐるしく変化する展開に次ぐ展開、両耳からうるさくなる弾きまくりのギター2本中心に奏でられる不規則なアンサンブルの上を、ひょいひょいと美メロで彩るボーカル。(美メロという観点でいえば、この要素に大きく寄与したのが後期DGDのVo.かつex-Tides Of ManのTillian Pearsonであったことは言うまでもないが。)元をたどれば彼らも影響元はエモ周辺に爆発的に増殖したマス的なポストハードコアだと僕は考えていて、それは例えばCinemechanicaMeet Me In St.Louisなどが好例としてあげられるのではないだろうか。それに、よりソリッドでメタリックな要素とSaosin以降の美麗スクリーモを放り込んだスタイルをThe Fall Of Troy辺りが築きあげ、あるいはその流れは海を越えてClosure In Moscowなんかにも波及した。ジャンルとしての足腰は整っていても、いかんせん複雑な曲展開の多い音楽なので、フォロワー自体も多くなく、ひっそりとしたジャンルだという認識があったが、Blue Swanによって、この手のバンドが一気に世に出たことで、いささかその特別感さえも薄れてしまったようにも感じる。

 

さて、そんなBlue Swanの送り出す気鋭のバンドたち(= Swan Coreとも呼ばれたりする)の中でも目覚ましいのがHail The Sunだろう。何が面白いのかといえば、何をおいても、ドラムがメインボーカルを務める4人編成だというところだ。楽曲の緩急をそのエネルギッシュなドラミングで操りながらも、エモーショナルな美声を披露するDr / Vo. Donovanは、この界隈の新しい顔となるに相応しい存在だろう。

 

Tides Of Manを彷彿とさせる情熱的なクロマチックフレーズがイントロから炸裂する#3 “Black Serotonin”、ミドルテンポでのクリーンアルペジオの浮遊感と、裏打ちザク切りのバッキングギターの#6 “Cosmic Narcissism”、ショートトラックで、ドラムパートも少ないがなぜかMV曲に選出されている#7 “Relax/Divide”等、様々な表情を見せる今作でも僕が特に気に入っているのが、どことなくエモリバイバルの香りを感じるヘナいイントロと中盤のクールダウン、そこからのシャウトと急上昇とマス的要素の詰まった#9 “Missed Injections”。

 

彼らはこの出世作のリリースの2年後、Equal Vision Recordsに移籍。今年”Culture Scars”というアルバムを世に送り出した。音像は完全にEqual Vision色のそれとなり、クリアなサウンドに、フレーズもメタリックさを増し、Swan Core色はかなり薄れてしまった。(それでもなおメロディの素晴らしさもエモーショナルさも健在ゆえに、これは祝福すべき一歩だと思う。)

大手レーベルに移籍することで音像がそのレーベルカラーになるのはよくある話だが、ことHail The Sunに関して言えば、とても既視感のある、同じ流れをたどったバンドがいるのがわかるだろうか?

そう、The Fall Of Troyだ。

2作目にしてEqual Visionに移籍し、名作”Doppelganger”をリリース、以降ポストコアシーンを牽引した彼らのように、Hail The Sunにもシーンの旗手として、ますますの活躍を期待したいものだ。

 

新譜からガチガチのキラーチューン、”Paranoia”。0:36辺りからのサビメロとギターの絡みが最高。ギターソロも無駄にエモい。

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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