disc review憧憬の落し子は、新新世代の先鋭へと

tomohiro

No One Loves youblis.

release:

place:

2006年の設立から、ものの10年で名門レーベルの地位へと登りつめたと言える急先鋒レーベル、SARGENT HOUSE。This Town Needs Guns(のちにTTNG)や、Maps & AtlasesTera Melos等のマス・ポストロックやRed SparowesRussian Circles等ポストメタルバンドの中でも第一線級の主力のマネジメント、リリースを受け持つSARGENT HOUSEが2017年、ひとつの大型新人のリリースを敢行した。それが今回紹介するblis.(Blis. blis等表記が安定しないのでジャケットの表記に準ずる)である。

彼らの音楽性は言うなればハイブリッド型。エモからの影響はその泣き虫なメロディや繊細なギターフレーズから見て取れる一方で、Rise Records系統のハードなスクリーモを想起させるシャウトも飛び出すし、ジリジリ、ビリビリと耳を揺らす轟音はポストメタル、スペースオルタナに迫るミチミチの肉迫サウンド。言うなればSARGENT HOUSEがこれまでリリースして来たバンドの要素を集めたようなバンドであり、彼らが打ち出す新世代として実に納得のいくバンドだ。これもまたSARGENT HOUSEのバンドであるNativeがポストハードコア/カオティックの新世代足り得たように、次なる新世代を切り開くような先鋭的なセンスをblis.からは感じる。

今作、『No One Loves You』は彼らとしては初のフルアルバムとなる。前作であるEPは2015年リリース、まさに新人だ。11曲36分の衝動が詰め込まれたこの作品は、どこかマザコンっぽい女々しさの抜けないしゃがれ声とハードなスクリームを使い分け感情を鮮烈にぶちまけるGt/Vo. Aaron Gossettの生々しさをレーベルバックアップのもと、その魅力を2倍にも3倍にも昇華させた録音に成功。その目の前にあるかのような音像のクリアさと躍動感がすでにかなりの聴きどころだ。

子どもの遊ぶ声がバックに流れていたり、1st EPのタイトル『Starting Fires In My Parents House』、リード曲#3 “Take Me Home”のティーンエイジャー性というか、もはやチャイルドフッド感も合わせて、第一印象は親ばなれの出来ない、少年から抜け出せないままの大人たちのパワーポップ。しかし、そこに予想を裏切る悲痛な叫びがあり、そこには渇いた大人の感情が交錯する。個性といってしまうのは簡単だが、彼らは確かに確固たる彼ら自身、すなわち個性がある。

オープニングトラックである#1 “Dumb”からノイズ垂れ流しのスペースオルタナとシューゲイザーの合いの子みたいな粗野さと整合性とを披露し、#5 “Old Man”での深いリバーブのかかったチョーキングとボーカルのハミングはそれをさらにWhirrNothingのDoomgaze方面への派生させたような音像で痺れる。と思いきや、Hikes的ポストロックなアプローチを見せる前半からこのアルバム一番の感情の爆発を見せる#7 “Ugly”の激情さに完全に意表を突かれる。僕がアルバムで一番好きなのはそんな後半のハードなスクリームが心をえぐるこの曲だ。

イントロ各曲をノイズやリバーブの残響を使って淀みなくつなぎ合わせており、一曲ごとのシンプルさも相まって、サクッと聴けてしまうアルバムであるところがまた見事である。

まだまだ余力を感じるまずは録って出し的なフルアルバムだが、この余力に先行投資するのは悪くない。今年最も今後に期待したいと思えるアーティストに出会えたかもしれない、それだけの期待感を感じてしまう大物感がすでに彼らにはある。とりあえず、聞いて見てほしい。LOW-PASSかなざわさんもレコメンドしていることだし。

 

WRITER

tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

このライターの記事を読む