disc review蟹座から見据える、明暗と光芒の稜線

tomohiro

The Audio MediumThe Cancer Conspiracy

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地底にポッカリと口を開けるウロの中から響いてくるような、荘厳であり、悲劇的で、ゴシックな佇まいを思わせるピアノのその鳴りが幕を開ける”The Audio Medium”。2001年から2003年というわずかな間の活動ながらも、その異質かつ、のちのRussian Circlesにも繋がる音楽的な文脈を突然変異的に残す足跡を持って、今も語られるプログレッシブ・インストバンド、The Cancer Conspiracy。現代で言うところのポストロック的要素も多分に含むし、その展開は時にマス的な発散の仕方もする、そんなスリーピースの彼らであるが、それは結果としてのことであり、彼らの音楽がそれらを意識して作られたものだと言うのはいささか間違っていおり、むしろそのルーツはもっと過去に遡り、俗に言うところの「プログレバンド」にあるように僕は思える。それはギターが奏でる無機質に、時としてエモーショナルな顔を覗かせるギタリストライクなリフから感じられ、コロコロと表情を変えるベースと、常人離れした表現力のドラムと言う二つの楽器に色づけされることによってより一層その色を強める。

 

冒頭に語った#1 “…To Sleep”の導入を抜け、ひどく残響するギターの鳴りの上を、ベースとドラムがポリリズミックに展開し、緊張感を煽る#2 “Broken Heartbeats Gathered and Rebroadcast”は中盤に見られるクリーントーンでのギターアルペジオに潜むメランコリックな色合いが魅力だ。続く、#3,4はおそらく2曲で1つの組曲となっているのだろう。変拍子でめちゃくちゃに駆け抜ける、マス的トラックの#3と、その混沌を抜け、一定の周期で脈動するベースが始まれば後半、#4の始まりだ。ディレイで尾を引くミュートギターや、ベースのハイポジションアルペジオ、サックスの哀愁のある響きと、それらのフリーダムな混ざり合いを驚異的なリズム感で支えるドラムと実に味わいどころの多い一曲。続く#5 “The Silence Of Underwater Traffic”は、その詩的なタイトルにふさわしい、深海の深い青を思わせるピアノインスト。彼らの本領はその実、こうして挿入される叙情的なピアノにあるのではないかと思えるような美しい旋律だ。残る4曲は、合わせて”The Audio Medium”となる組曲。すでに1曲めから思慮深い内向性を感じさせる長編の”Conversation With A Wall”、幕間のノイズがうねる”Interrupt Feed”、シンセフレーズが幻想的な柔らかさを醸し出す”The Divided Heir”、コード感に壮大さの現れる、Russian Circlesファンドンピシャな”Live Through the Age Of Radio”で実に25分弱の物語だ。

活動期間の短さながらも確かなファンを獲得し、実は2017年にオリジナルメンバーでのライブを突発的に行い今後の活動再開も噂される、The Cancer Conspiracy。現代のヘヴィポストロック、ポストメタルに至る系譜の外伝的に聞いておきたい一枚だ。

 

 

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tomohiro

エモを中心に枝葉を伸ばして聴いています。アナログな人間でありたいと思っています。野菜がたくさんのったラーメンが好きです。

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